第123話  蔵入り~令和の国難に向けて 2

文字数 3,209文字

 旧山崎本邸では拓馬を中心として2022年2月の国難への対策について議論が続いていた。

 拓馬:
「それでは、次に原子力発電の超小型化についての進捗を弥太郎から皆に説明してほしい」

 弥太郎:
「はい、これについては法制度上秘密の開発であり、四国の山崎本家が所有する広大な山林内に日本総合警備保障会社の研修訓練施設を隠れ蓑にして研究施設を建設、研究を重ねてきましたが、大々的な実験が出来ないことがネックとなり、設計理論上は、ほぼ完成に近づいたと思っていますが、実際の運用、検証が出来ないというのが現状です」

 拓馬:
「それについては、許されるぎりぎりの最終手段を取る。母さんの空間創造で設備の建造、実験をする。
 原子力発電のみならず電源の超小型化はそれ以外の計画の実現に必須であり、一年以内の開発完成、二年以内の配備実用化を目指す。
 電源の超小型化によってもたらされるレールガン、高出力レーザーガンの実用化実戦配備は、敵の超音速ミサイルの迎撃のみならず将来において砲弾やミサイルなどの実体弾よりウエイトを占めるようになる。
 電源の超小型化については、防衛装備庁と共同開発の形をとり技術を提供し実用化を促進する」

 豊川良一(五菱重工社長):
「それに関連してですが、現在はミサイル発射の察知をアメリカの静止衛星であるDSP衛星
(早期警戒衛星)に頼っていますが、我々もDSP衛星の打ち上げは技術的に可能です」

 拓馬:
「うむ、直、弥太郎、政治的にすぐ行動してくれ」
「「はいっ」」

 拓馬:
「次に直哉、量子暗号通信の進捗について説明してくれ」

 榊直哉(日本宇宙通信社長):
「はい。これについては理論技術的にほぼ完成しています。あとは実験を重ね実用化を待つだけです」

 拓馬:
「うむ・・この分野で他に最も進んでいるのは西芝電機だったな。
 直哉、西芝と量子暗号通信の技術提携を結んでくれ。
 こちらの方が与えるものが多く、研究者たち開発に携わった者たちには不満もあるだろうが、日本が将来において超技術立国として発展するためには研究のすそ野を五菱グループだけでなく、もっと大きくする必要があるのだ。理解してくれ」

 榊直哉(日本宇宙通信社長):
「それについては、問題はないと思います。開発当初から研究者には72年前の始祖様のヒントを誰からとは言わずいくつか提示していたため、彼らは、自分たちより進んだ研究者がいると理解し謙虚な姿勢で取り組んできています。
 それに量子暗号通信が実用化されれば、サイバー攻撃を無効に出来るだけでなく、前世代の通信技術である敵の通信能力まで無力化することも可能となります」

 拓馬:
「そうだ。無益な血を流さずに済む・・・」

 この後も会議は続き、午前中から国難に対しての技術的戦略面からの検討が一段落すると昼食休憩となった。
 午後からは主に外交面についての議題が主となり、会議が続けられた。

 拓馬:
「・・外交については、こちらからの一方的でない継続的な働きかけが必要で難しい問題だ。
 弥一郎、対米工作はどうだ? また、中国、北・南鮮の反日工作に対しては?」

 山崎弥一郎(五菱商事社長)
「はい。五菱商事は戦前祖父小弥太の時代から対米工作を積極的に行ってきました。
 米国要人にはウクライナ問題についてロシアに対する強い牽制の必要性について説いているところです。
 また、中国、南鮮による歴史捏造反日工作に対抗すべく直様の日本政治研究所、世界中に支店を持つ日本総合警備保障会社と連携しながら国内外に正しい歴史知識の普及に努めています」

 榊直:
「国内外問わず、正しい歴史研究のための助成も日本政治研究所を通して行っています。
 実際に開戦となれば、日本中に潜入している工作員や悪質な協力者に対して日本の法律の不備をカバーすべく秘密裡の実力行使も已むを得ないと考えています」

 拓馬:
「・・・それでいい。対米工作も反日工作への対抗措置も大切だ。
 民間企業であるから限界もあるだろうが、引き続き活動を続けてほしい。
 それによって、ロシア、中国、北鮮の一角でも崩すことが出来れば三ヶ国連携にひびが入る。
 アメリカは来年(2021年)共和党から民主党のバイゼン政権に代わる。
 民主党には親中派が多いが、現共和党コランプ政権によって反中国の姿勢が明確になり、それを急に変えることは出来ないだろう。
 ロシアに対する最も有効な制裁の一つが、スイフト(SWIFT、国際銀行間通信協会、国際金融取引ネットワークシステム)からの排除だ。
 バイゼンが、ロシアがウクライナに侵攻すればスイフトから排除することを明確にすれば、ロシアは国際取引が出来なくなり、ソ連時代の孤立経済に逆戻りだ。経済的打撃は計り知れない。
 ソ連崩壊時の経済混乱が国民のトラウマとなっているロシアには効果的な牽制となるんだが、制裁する方もロシアと交易をしているから痛みを伴うことになるからなぁ・・」

 拓馬:
「そういえば、オーストラリアの石炭会社への出資はどうだ?」

 山崎弥一郎(五菱商事社長)
「それについては、父の時代からご指定の鉱山会社への出資を続けてきました。
 それらの会社は、現在ではいずれも良質の石炭を産出し、当社の収益にも大きく寄与しております」

 拓馬:
「今年の秋ごろから収益はさらに増大するだろう。
 なぜなら、オーストラリア政府は中国のウイグル人権問題を批判する。
 それに対して中国は嫌がらせの為、それまで大量に行っていたオーストラリアからの石炭の輸入を禁止する。
 しかし、何の心配もいらない。世界中から良質なオーストラリア石炭の輸入引き合いが殺到するからだ。結果としてオーストラリアには何の痛手もなく収益が伸びるのだ。
 中国にとっての問題はここからだ。
 中国は、ロシアからオーストラリアより品質が劣る石炭を高値で買わざるを得なくなる。ロシアが足元を見るからだ。
 元々心から信頼している相手ではなく当座の利害だけの関係だから、中国のロシアに対する不信感は多少なりとも大きくなるはずだ。
 中国は、世界中から高値で石油と石炭を買いあさるだろう。
 その余波で世界の燃料価格が高騰する。
 また、バイゼン政権はシェールガスの増産を止める。そのため石油はさらに高騰する。
 結果として、中国の発電事業は燃料の高騰で操業停止による停電が相次ぐが、中国共産党は表向き、脱炭素のための停電だと対外的に宣伝しながら裏では躍起になって石油石炭を買いあさる。
 国内のかつての過当競争で閉山した炭鉱を再開しようとするが、毎年のように続く大洪水と
杜撰な治水事業のため水没した炭鉱を再開することは多額の費用と時間が必要となる。
 結果、中国の外貨準備は減少し、戦争遂行のための国力に赤信号がともる。
 また、これに輪をかけるのが土地バブルの崩壊だ。
 そもそも、土地利権は中国の旧指導部がその多くを握っている。現指導部はそれを崩して資金源を断ちたいのだ。
 中国は、スイフトを通さず、デジタル元を普及させ元を世界の基軸通貨にし、ドルから脱却しようとしているが、中国と元に対する信用がない現状ではまず無理だ。これについては、ロシアもドルからの脱却を目指しているが、中国の元と同様ルーブルも世界の基軸通貨になることなどまず無理だ」

 拓馬:
「前の歴史で共和党コランプ政権は、民主党に政権が代わる前に中国のウイグル人権問題はジェノサイドだと認定した。
 しかし、中国のジェノサイドを止める法律の成立は民主党バイゼン政権がしなければならない。
 だが、バイゼン政権は積極的に取り組まず大統領の署名が遅くなる可能性がある。
 ウイグルのジェノサイド対策を後押しし、対中国の強硬姿勢が崩れないよう、これからも対米工作は続けてくれ」

 弥一郎・直
「「はい」」
 もちろん参集者全員が頷き同意したのだった。

 この後も外交問題は続き会議は終盤となった。
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