第117話  三度目の歴史

文字数 1,576文字

 今、私たちが生きている世界は、この三度目の歴史になります。
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 拓馬と栞は、再び転生し、三度目の歴史をやり直すことになった。
 今回、彼らは前回を教訓として特に明治維新後の五菱財閥の創設に力を注いだ。
 財閥によって日本の経済力ひいては国力を増強し、国難を乗り越えることを意図したのである。
 また、強力な財閥の力による間接的な国政への影響を図ったのだった。

 だが、山崎家は前回と同じく土佐の地下浪人であり、明治初期には政界との結びつきを強くすることで財閥を形成しなければならず、世上では政商の五菱と呼ばれた。
 山崎四天王家とも結びつきは薄くなっており、財閥創設の初期に五菱の四天王として活躍したに(とど)まったのだった。
 五菱評定についても第二次世界大戦後の財閥解体後に結成されたが、五菱財閥の復活には至らなかった。

 このため、中鮮ロ三ヶ国の侵攻には十分対処できたとは言えなかったが、弥太郎や榊直の働きかけで時の首相阿倍野晋三は、中国のサイバー攻撃を無効とする電子兵器の開発に着手したのだった。
 もちろん、弥太郎と榊直には政府とは別に兵器開発を進めさせ来るべき開戦に備えさせていた。

 しかし、ここで前二回とは違う状況が生まれた。
 中国で発生した武漢ウイルスによる武漢肺炎がかつてない猛威を振るったのだった。
 2020年開催予定の東京オリンピックは、2021年に延期を余儀なくされ無観客で行われた。
 
 ちなみに、三回目の歴史では武漢肺炎とは呼ばず、新型コロナと呼んでいた。 
 中国共産党は、前二回の歴史よりも強大となっており、国連や世界保健機構WHOを始め日本のマスコミも中国に忖度し、新型コロナと呼んだのだ。
 ところが、イギリスやインドで変異型が発見されると、マスコミは「イギリス変異型」とか「インド変異型」と遠慮なく呼んだが、中国コロナウイルスとか武漢ウイルスとは決して言わなかった。
 さすがに、これらの変異株はWHOによってアルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株などと呼ばれるようになったが、次々に現れる変異型は凶悪化した。
 
 中鮮ロ三か国も新型コロナへの対応に苦慮した。
 侵攻を強行したとしても世界的なコロナウイルスの蔓延の中での侵攻は世界的な批判を浴びることは確実であろう。
 また、2021年夏の中国国内の洪水被害は大きく、日本台湾への侵攻を中止せざるを得なくなったのだった。


 2021年の東京オリンピック、パラリンピックともに人々はテレビで観戦したのだが、オリンピック、パラスポーツともに世界レベルでの技量、努力、そしてアスリートの素晴らしいパフォーマンスは人々を感動させ、勇気づけるものであった。
 コロナのため、営業休止や廃業に追い込まれた企業や事業所も多く、困窮し苦しんでいる大勢の人々が励まされたのだった。 

 もし、コロナが猛威を振るわず、予定通り2020年にオリンピックが開催されていたら日本国民のお祭り気分を突かれて三ヶ国の侵攻を許したかもしれない。 
 不謹慎かもしれないが、日本はコロナに助けられたとも言えるだろう。
 台湾と日本に侵攻しようとした中国が自国内で発生させたコロナウイルスが原因で侵攻を中止せざるを得なかったのは皮肉である。
 
 拓馬と栞は、ほっと胸を撫でおろした。国難は去ったのではないかと思ったのだ。
 だが、二人は抗うことのできない大きな力によって三度目の転生をさせられ、四度目の歴史を生きることとなった。

 意識が薄れていく中、栞は、それまではっきりと見えなかった未来が映画のシーンのように見えた。
 栞は、危機が去ってはいなかったことに慄然(りつぜん)としたのだった。
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