第91話 運命の女性~デート 申し込み
文字数 1,620文字
----2019年末 五菱商事国内商事部門本部 本部長室----
弥一郎の突然の告白に、総務部長も拓馬も固まっていたのだが、その場の男たちには、他には絶対漏らしてはいけない男同士の秘密を共有したときの緊張と少しの興奮と一種の連帯感のような空気が流れていた。
すると、弥一郎が突然、拓馬に向かって真剣な表情で、
「それで、会社再建の大変なときで申し訳ないのですが、来年の8日以降の平日で、山科さんのご都合の良い日に我家に来ていただけないでしょうか。娘に会っていただきたいのです。父や妻も承知の上です。是非お願いします」
と、言い、頭を下げたのだった。
拓馬は、弥一郎の想いも寄らない申し出と、明子という女性は弥一郎の隠し子だろうとは、この場の誰もが理解したばかりなのだが、山崎代表は分かるとして、奥さんも承知の上という言葉に理解が追い付かず、
「明子さんにということですか?」
と尋ねるのがやっとだった。
「はい」
弥一郎の返事は、全く迷いが無いものであり、拓馬と明子が会うのは当然といった雰囲気と表情であった。
結局、拓馬は来年(2020年)1月8日の午前中に弥一郎宅を訪問し、昼食も共にする約束をしたのだった。
帰途、拓馬は、明子さんは承知の上だろうか?、弥一郎さんは明子さんの了解を取っているのだろうか?、いや、取っていないはずはないな、でも奥さんも承知と云うのは??、そう言えば、明子さんのお母さんとはどういう人なんだろう?、だが、それにしてもまだ数ヶ月の付き合いでしかない、元々どこの馬の骨とも分からない俺にたとえ隠し子とはいえ、いきなり家に来て会ってくれなどと五菱財閥の次期後継者が言うだろうか?、いや、それについては、弥太郎さんも承知のことか、それにしてもあの弥一郎さんの今日の丁寧な態度と言い、真剣な表情と言い、しかし、会って当然、いや会うべきとも言うような雰囲気は一体何なんだ?、それより、明子さんは俺のことを知っていたんだろうか?、いや、それはないな、だが、やはり明子さんは承知の上だろうか?
拓馬の疑問は、次々と湧いてくるのだが、いつの間にか最初に戻ってエンドレスのループになってしまうのだった。
弥一郎の考えを覗けば、全てわかることなのだが、自分の一生にとって最も大事なことの予感がして、安易な方法は採れなかったし、採るべきではない、お前自身が確認しろと自分自身から言われているような気がした。
拓馬は、ようやく人として最善を尽くそうと決心したのだった。
その日は、当初からの予定だったのだが、会社には戻らず、自宅へと直帰した。
帰宅した拓馬は、その日のことを母の栞に話したのだが、栞は、
「会ってみればいいんじゃない。悪い予感は全くしないわ。いえ、これはきっと良いことよ。何かわくわくするわね」
と上機嫌で答えたのだった。
拓馬も、そう言えば俺も悪い予感は全くしないな、よし、失礼のない自然体で会えば良いだろう、うん、そうしようと改めて思うのだった。
だが、
(んっ?・・、何故1月8日以降の平日なんだ?・・、まあ、いいか、五菱財閥の総帥の山崎家ともなれば、正月は勿論、土日もすでにいろいろと用件があるんだろう)
と、疑問も湧いたのだが、一人答えを見つけて納得したのだった。
因みに、弥一郎が、1月8日以降の平日と言ったのは、息子龍馬の小学校が、その日から冬休みも終わり、新学期の通常授業が始まるからだった。
もし、龍馬が家にいる時に拓馬が来訪しようものなら、龍馬は、拓馬から決して離れようとはしないだろう。
そうなれば、弥一郎の計画は、失敗が目に見えているから、ただそれだけだった。
さらに、このことは、妻の希美と父の弥太郎には話していたが、まだ、明子と三和子には話しておらず、これから話そうと思っていた。
だが、明子は、今日一瞬でも拓馬を見ているはずだ、ならば断られることはないという確信が弥一郎にはあった。
弥一郎の突然の告白に、総務部長も拓馬も固まっていたのだが、その場の男たちには、他には絶対漏らしてはいけない男同士の秘密を共有したときの緊張と少しの興奮と一種の連帯感のような空気が流れていた。
すると、弥一郎が突然、拓馬に向かって真剣な表情で、
「それで、会社再建の大変なときで申し訳ないのですが、来年の8日以降の平日で、山科さんのご都合の良い日に我家に来ていただけないでしょうか。娘に会っていただきたいのです。父や妻も承知の上です。是非お願いします」
と、言い、頭を下げたのだった。
拓馬は、弥一郎の想いも寄らない申し出と、明子という女性は弥一郎の隠し子だろうとは、この場の誰もが理解したばかりなのだが、山崎代表は分かるとして、奥さんも承知の上という言葉に理解が追い付かず、
「明子さんにということですか?」
と尋ねるのがやっとだった。
「はい」
弥一郎の返事は、全く迷いが無いものであり、拓馬と明子が会うのは当然といった雰囲気と表情であった。
結局、拓馬は来年(2020年)1月8日の午前中に弥一郎宅を訪問し、昼食も共にする約束をしたのだった。
帰途、拓馬は、明子さんは承知の上だろうか?、弥一郎さんは明子さんの了解を取っているのだろうか?、いや、取っていないはずはないな、でも奥さんも承知と云うのは??、そう言えば、明子さんのお母さんとはどういう人なんだろう?、だが、それにしてもまだ数ヶ月の付き合いでしかない、元々どこの馬の骨とも分からない俺にたとえ隠し子とはいえ、いきなり家に来て会ってくれなどと五菱財閥の次期後継者が言うだろうか?、いや、それについては、弥太郎さんも承知のことか、それにしてもあの弥一郎さんの今日の丁寧な態度と言い、真剣な表情と言い、しかし、会って当然、いや会うべきとも言うような雰囲気は一体何なんだ?、それより、明子さんは俺のことを知っていたんだろうか?、いや、それはないな、だが、やはり明子さんは承知の上だろうか?
拓馬の疑問は、次々と湧いてくるのだが、いつの間にか最初に戻ってエンドレスのループになってしまうのだった。
弥一郎の考えを覗けば、全てわかることなのだが、自分の一生にとって最も大事なことの予感がして、安易な方法は採れなかったし、採るべきではない、お前自身が確認しろと自分自身から言われているような気がした。
拓馬は、ようやく人として最善を尽くそうと決心したのだった。
その日は、当初からの予定だったのだが、会社には戻らず、自宅へと直帰した。
帰宅した拓馬は、その日のことを母の栞に話したのだが、栞は、
「会ってみればいいんじゃない。悪い予感は全くしないわ。いえ、これはきっと良いことよ。何かわくわくするわね」
と上機嫌で答えたのだった。
拓馬も、そう言えば俺も悪い予感は全くしないな、よし、失礼のない自然体で会えば良いだろう、うん、そうしようと改めて思うのだった。
だが、
(んっ?・・、何故1月8日以降の平日なんだ?・・、まあ、いいか、五菱財閥の総帥の山崎家ともなれば、正月は勿論、土日もすでにいろいろと用件があるんだろう)
と、疑問も湧いたのだが、一人答えを見つけて納得したのだった。
因みに、弥一郎が、1月8日以降の平日と言ったのは、息子龍馬の小学校が、その日から冬休みも終わり、新学期の通常授業が始まるからだった。
もし、龍馬が家にいる時に拓馬が来訪しようものなら、龍馬は、拓馬から決して離れようとはしないだろう。
そうなれば、弥一郎の計画は、失敗が目に見えているから、ただそれだけだった。
さらに、このことは、妻の希美と父の弥太郎には話していたが、まだ、明子と三和子には話しておらず、これから話そうと思っていた。
だが、明子は、今日一瞬でも拓馬を見ているはずだ、ならば断られることはないという確信が弥一郎にはあった。