第103話 72年ぶりの蔵入り~拓馬の精神世界
文字数 1,533文字
翌日早暁、蔵入りのために集まった15人は、腹にさらしを巻いた褌姿で、戸外にある井戸を囲み、水垢離をしていた。
その日の朝は、たとえ南国とはいえ、思わず身震いするほどの冷気であったが、温度が一定の井戸の水は、外気よりも温かいことが救いであった。
身体を清め、それぞれ紋付羽織袴姿に着替えて、神前と仏壇へのお参りの後、軽い朝食を摂った。
それから、山崎家当主の直正を先頭に蔵入りをしたのだった。
なお、この日の蔵入りは、深夜まで続くが、食事の用意は一切必要無かった。
山崎家の使用人たちは、ただ誰も邸内に入れないようにとの命を受けただけであった。
さらに、日本総合警備保障会社からも直の直属の部下が派遣され、警戒に当たったのだった。
----蔵入りの半月ほど前----拓馬が建墓した日の深夜----
拓馬は、懸案だった建墓を済ませ、ほっとしたためか、その夜は早く就寝した。
それは栞も同じで、拓馬に合一した後、すぐに心地よい眠りに入ったのだった。
拓馬は、宇宙生命体として覚醒してから、睡眠を取らなくても体の疲れを回復出来るのだが、長年の人間としての習慣なのか、眠らないとストレスを感じるので、覚醒前と同じように睡眠を取ることにしており、熟睡すれば目覚めは爽快であった。
この夜は、拓馬も栞もすぐに深い眠りに入った。
表層の意識とも謂うべき拓馬の熟睡は、深層の意識である拓馬にとっては僥倖であった。
表層の意識に覆われた拓馬の輝核が、十分ではないが、ようやく活動を始めることが出来たのだ。
深夜になった。
「母さん、母さん、起きて・・」
深層の拓馬の呼びかけに、栞は目を覚まし、自分が不思議な空間の中にいることに気が付いた。
栞は、拓馬が5才の時から拓馬に合一しているのだが、このような空間の体験は、初めてであった。
肉体を持たない宇宙生命体は、輝核となって人間の体内へと入り合一するのだが、その際、精神生命体でもある彼らは、肉体とか空間を意識することは無いのだ。
だが、栞は今、普段どおりの姿で確かに空間の中にいた。
その空間は、優しく温かく心地よい淡い光に満ちていた。
栞の前には、いつもの息子の拓馬がいた。
(・・ここは、拓馬の精神世界?・・あなたは拓馬?・・・)
(そうだよ、母さん・・・)
「これは、どういうことなの?・・それに何故、そんなにつらそうにしているの?・・・」
栞は、驚きのため思わず言葉を出した。
人間として生きていくことを決めた時から、栞と拓馬は、普段の生活でも思念よりも言葉での会話の方が多くなっていたからだった。
「ああ・・母さんの声だ・・昔と少しも変わっていない・・・」
「あなた、何を言っているの?・・・」
「・・母さん、俺の話を聞いて・・・一度に全部できないから少しずつになるけど・・・」
「・ええ、いいわ・・」
その夜、栞は、拓馬の状態が今どうなっているのかを知ることが出来たのだった。
翌日の夜から、表層の拓馬が熟睡する深夜になると、拓馬の精神世界では、深層の拓馬が栞の前に現れ、二人が日本に到着し、今までの何度も繰り返された歴史と、何故、10億年前にノアを発つことになったのかの原因が拓馬の口から語られたのだった。
さらに、彼は、これから起こる可能性のある歴史についても語った。
深層の拓馬の語る歴史は二週間を要した。
表層の意識に覆われた拓馬の輝核は、本来の力を発揮することが出来ず、時間を要したのだった。
そして、栞も全てを思い出すことが出来た。
話が終わった最後の夜、栞は宇宙生命体となって、榊直と山崎直正を訪ねた。
そこで、彼女は二人に対し、今回の蔵入りについて、有無を言わさぬ強い口調で、参集の指示を下したのだった。
その日の朝は、たとえ南国とはいえ、思わず身震いするほどの冷気であったが、温度が一定の井戸の水は、外気よりも温かいことが救いであった。
身体を清め、それぞれ紋付羽織袴姿に着替えて、神前と仏壇へのお参りの後、軽い朝食を摂った。
それから、山崎家当主の直正を先頭に蔵入りをしたのだった。
なお、この日の蔵入りは、深夜まで続くが、食事の用意は一切必要無かった。
山崎家の使用人たちは、ただ誰も邸内に入れないようにとの命を受けただけであった。
さらに、日本総合警備保障会社からも直の直属の部下が派遣され、警戒に当たったのだった。
----蔵入りの半月ほど前----拓馬が建墓した日の深夜----
拓馬は、懸案だった建墓を済ませ、ほっとしたためか、その夜は早く就寝した。
それは栞も同じで、拓馬に合一した後、すぐに心地よい眠りに入ったのだった。
拓馬は、宇宙生命体として覚醒してから、睡眠を取らなくても体の疲れを回復出来るのだが、長年の人間としての習慣なのか、眠らないとストレスを感じるので、覚醒前と同じように睡眠を取ることにしており、熟睡すれば目覚めは爽快であった。
この夜は、拓馬も栞もすぐに深い眠りに入った。
表層の意識とも謂うべき拓馬の熟睡は、深層の意識である拓馬にとっては僥倖であった。
表層の意識に覆われた拓馬の輝核が、十分ではないが、ようやく活動を始めることが出来たのだ。
深夜になった。
「母さん、母さん、起きて・・」
深層の拓馬の呼びかけに、栞は目を覚まし、自分が不思議な空間の中にいることに気が付いた。
栞は、拓馬が5才の時から拓馬に合一しているのだが、このような空間の体験は、初めてであった。
肉体を持たない宇宙生命体は、輝核となって人間の体内へと入り合一するのだが、その際、精神生命体でもある彼らは、肉体とか空間を意識することは無いのだ。
だが、栞は今、普段どおりの姿で確かに空間の中にいた。
その空間は、優しく温かく心地よい淡い光に満ちていた。
栞の前には、いつもの息子の拓馬がいた。
(・・ここは、拓馬の精神世界?・・あなたは拓馬?・・・)
(そうだよ、母さん・・・)
「これは、どういうことなの?・・それに何故、そんなにつらそうにしているの?・・・」
栞は、驚きのため思わず言葉を出した。
人間として生きていくことを決めた時から、栞と拓馬は、普段の生活でも思念よりも言葉での会話の方が多くなっていたからだった。
「ああ・・母さんの声だ・・昔と少しも変わっていない・・・」
「あなた、何を言っているの?・・・」
「・・母さん、俺の話を聞いて・・・一度に全部できないから少しずつになるけど・・・」
「・ええ、いいわ・・」
その夜、栞は、拓馬の状態が今どうなっているのかを知ることが出来たのだった。
翌日の夜から、表層の拓馬が熟睡する深夜になると、拓馬の精神世界では、深層の拓馬が栞の前に現れ、二人が日本に到着し、今までの何度も繰り返された歴史と、何故、10億年前にノアを発つことになったのかの原因が拓馬の口から語られたのだった。
さらに、彼は、これから起こる可能性のある歴史についても語った。
深層の拓馬の語る歴史は二週間を要した。
表層の意識に覆われた拓馬の輝核は、本来の力を発揮することが出来ず、時間を要したのだった。
そして、栞も全てを思い出すことが出来た。
話が終わった最後の夜、栞は宇宙生命体となって、榊直と山崎直正を訪ねた。
そこで、彼女は二人に対し、今回の蔵入りについて、有無を言わさぬ強い口調で、参集の指示を下したのだった。