第10話  同胞の回想~再会(同一の例外~拓馬の母親)

文字数 1,425文字

 〔同一の例外~拓馬の母親〕
 宇宙生命体が人間に同一すると、その人間と完全に同化し、その人間に生まれ変わる。
 覚醒すること無く、その人間として生きて死んでいく。
 だが、拓馬の母親となった宇宙生命体夫婦αの娘は、交通事故に遭った時、覚醒する。

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 十億年以上生きているのに、たった三千年が、こんなに長いとは思わなかった。

 拓馬は生きているのか、死んでいるのかも分からなかった。
 私の呼びかけにまったく反応がないし、拓馬からの呼びかけも感知できなかった。
 私たちの能力が、ますます劣化したのは間違いなかった。

 そして、地球に来て何人目か分からない人間と合一する時が来た。
 私は、病院の産婦人科で妊婦さんたちを見ていた。

 精神生命体と言える私は、誰にも見えないし、どんな精密機器でも感知することはできない。

 私は、ある妊婦が気になり、彼女の中の胎児に注意を集中したところ、胎児の未来がほんの少しだけ見えた。
 成長した胎児の姿は、私が三千年前に、日本で最初に合一した女性の娘に瓜二つだった。
 その娘は、とても美しく賢くて優しかった。

 私は、合一ではなく同一することにした。
 この地球で、人間として生きて死ぬことを決めた。


 私は、28才になった。

 夫の亮二さんと、息子の拓馬5才との三人暮らしは、毎日が幸せだ。
 今日は、親子三人の海水浴
 拓馬は、初めての海
 膝の上で寝ている拓馬が、どんな顔をするか楽しみだわ。

 海沿いのカーブを回った時、中央車線を越えて来た大型の対向車が、目の前にあった。

 ( だめぇ‼ たくまぁ !!! )

 その時、私は覚醒してすべてを思い出した。

 ( えっ ?? たくま ?? あなた ?? あなたなの ??!! )

 時間と空間が止まっていた。
 私の得意な能力だった。

 私は、拓馬の中にあの人( βの息子 )の光を見た。
 あの人も拓馬と同一していたのだ。

 同一したら覚醒することはなく、人間と一緒に死ぬのに、私は覚醒した。

 私が、αの娘だったから?
 私が母親となって、拓馬を産んだから?
 拓馬が、βの息子だったから?
 今でも分からない。

 私は、三人が助かるように力を振り絞ったけれど、できなかった。
 三人一度に転移しようとしたけど、できなかった。
 一人ずつの転移もできなかった。
 でも、拓馬だけは助けなくてはと思い、日本に来る前、互いに合一して力を取り戻したことを思い出し、とても危険だとは思ったけれど、拓馬と合一するため、拓馬の中に思い切って入った。

 一人の人間の中に、私たちの同胞が二人で合一しようとすると、その人間は合一時の負担に耐え切れなくて、例外なく死んでしまった。
 だから、一人の人間の中に、二人以上の合一や同一は禁止されていた。
 同一は、合一よりも人間の負担が大きいのでなおさらだった。

 拓馬は、無事だった。
 すでにβの息子との同一を経験した拓馬の体が、私たち宇宙生命体に馴染んでいたのか?
 βの息子が、拓馬の体を守ったのか?
 よく分からない。

 私は、拓馬を一瞬で安全な場所に転移させた。
 その直後、車同士が激突し、私たちを乗せた車は、崖の上から海に落ちて行った。
 夫の亮二さんと人間としての私は、即死だった。

 私は、再び、まどろみという眠りに入った。
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