第16話  豪華な軽自動車

文字数 1,250文字

 今日は、母さんとドライブをしている。
 季節は、9月に入って秋になったが、まだ暑い日が続いている。
 車内は静かで、エアコンが心地いい。

 病院で、父さんの思い出を母さんから聞いた時、退院したら父さんとの思い出の場所に行ってみようと云う話になっていたからだ。

 俺たちは、午前中一番に軽の中古車専門店を訪れた。
 買ったのはスズンキの2,004年製、ワゴンARだ。
 手数料込みで総額11万円だった。

 車の引き渡しを受けた後、俺の運転で近くのパーキングまで移動した。

 「・・着いたよ、母さん ・・でも、もっといい車でも良かったのに・・・」

 何度目かの言葉を言った。

 「ふふっ・・いいのよ。見てなさい・・・」

 次の瞬間、俺たちの乗った車の内部が、広くゆったりとした豪華な内装の最高級車となっていた。
 俺は驚き、慌てて外に出てみると、外観は全く変わっていなかった。

 「空間拡張よ。すごいでしょ。ふふっ・・」

 チート、ハンパねぇー!!

 ネット小説の投稿サイトの異世界ものによく出てくる空間拡張の魔法と同じだ。
 しかし、実際にこの目でみると、現実感というか臨場感は圧倒的で、呆気に取られたまましばらく言葉が出なかった。

 「ちょっと力を入れないといけなかったけど、慣れれば簡単にできるわね。そうそう、都合が悪いときは、すぐ元に戻せるから心配ないわよ」

 母さんは、今回の事故で覚醒してから、能力の発現練習に余念がない。
 そのうえ上達速度が俺とは段違いに速い。
 俺は母さんに比べて、なかなか能力の発現が出来ない。
 母さんによると、人間の体は波長というか波動が荒く、中にいると能力の発現が難しいということだ。
 確かに今は母さんに助けてもらわないと発現できない能力もあるが、そのうち一人で出来るようになるだろうとのことだ。
 総じて順調に上達しているとのことなので、〝乞うご期待”といったところだそうだ。

 それに俺のDNAは、全て劇的に変化しており、肉体構造は外見上何も変わらないが、とんでもない進化をしているとのことだ。
 例えるなら、哺乳類の先祖と言われるネズミのような生物が、いきなり人間に進化したようなものだそうだ。
 宇宙生命体に進化する前の段階に近いのではないかと、母さんは言っていた。

 病院に入院中、医師たちから研究のための血液やDNAの提供を求められたことがあり、俺はそれに応じた。
 母さんに思念で相談すると、それらは体外に出た途端、普通の人間のものに戻るから何も問題ないと云うことだったので応じたのだ。

 結果は、医学的にも何の特異なものも無く、注目されることもなくなった。
 俺は通常の生活に戻り、今はこうやって内部は広くゆったりとした《 豪華な最高級車 》で、外観は軽のワゴンARでドライブしていると云う訳だ。

 それに俺が住んでいるアパートは、1戸に1台の駐車スペースがある。
 俺のアパートは駅に近く立地条件が非常に良い。
 駐車料金の相場もかなり高い。
 家賃10万円のみで駐車料金を払わなくてもいいので大助かりだ。
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