第6話  同胞の回想~宇宙生命体の誕生

文字数 713文字

 全てのDNAのスイッチを入れるというのは、全てのDNAを一度に強烈に活性化させ、その潜在能力を劇的に発現進化させるというもの。
 当時、科学的に可能なことだった。

 でも、誰も実行しなかった。
 どのような変化を、いえ、変貌を遂げるのか予測できなかったからだ・・・
 ノアの荒廃で、実行できる知識も設備も無くなりかけていたけれど、最後に残った五組の研究者夫婦が生き残りを賭けて実行した。

 結果は、三組の夫婦が失敗して死亡し、残りの二組が成功した。
 二組の夫婦の進化は、肉体が無くなるというものだった。
 宇宙生命体の誕生だった。

 宇宙生命体というのは、想念と意志だと言える。
 想念は、ただ思うということじゃなくて、思うことを現実化できるというもの。
 意志は、生きる意志のことだ。

 精神生命体とも言える。
 でも、私たちは普段、自分たちのことを宇宙生命体と言っていた。

 残った二組の夫婦のうち、一方の夫婦はα(アルファ)、もう一方の夫婦はβ(ベータ)と呼ばれた。
 彼らは、想念の現実化で肉体を持ち、若い時の姿になって子孫を作った。
 別に肉体を持たなくても子孫は作れたんだけど、昔のままの姿の方が良かったのだろう。

 ノアの環境も長い年月をかけて昔の姿を取り戻した。
 でも、神様じゃないから完全な命を吹き込むことはできなかった。
 植物も動物も繁殖はできなかったから、環境を維持するための修復は常に必要だった。

 やがて、私たちは世代を重ねて五千万の人口を有するようになった。
 私たちは、互いを同胞と呼び、名前はなかった。
 それでも、一人一人を認識出来たし、何の不便もなかった。

 名前が付けられたのは、αとβの二組の夫婦だけだった。
 一種の尊敬の意味が込められていた。
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