第116話  二度目の歴史~再び転生

文字数 1,020文字

 二度目の歴史において何が最適解なのか、拓馬も栞も手探りだった。
 どこまでの改変が許されるのか分からなかったからだ。
 だから、なるべく一度目の歴史から離れないことを最重点に干渉した。
 
 山崎の地で(はぐく)んだ人や技術も時代が下るにつれ徐々に全国へ四散するようにした。
 このため、各地での技術の発展は著しく技術立国と云われる日本の基となった。
 しかし、山崎家は次第に衰退し、幕末には土佐藩の地下浪人にまで落ちぶれていた。
 拓馬は、徳川幕府が開かれ大阪の陣までは、子孫に「指図書」を示し、思念で「指図」を行っていたが、幕末まで指図は行わなかった。
 
 拓馬が、再び指図を始めたのは、明治維新の前であった。
 世は再び騒然としていた頃であるが、蛤御門の変や戊辰戦争の時は、拓馬と栞が直接帝の護衛をしたのだった。
 
 拓馬は、山崎家の子孫に明治以降の国難に対応すべく指示をした。
 拓馬の指図は、経済的、情報的な面からのものが多く、政治に直接関与することは極力避けていた。
 過去に直接政治に関わろうとすると強制的に(あらが)えない力を感じることがしばしばであった。
 それは、もし強行しようとすれば再度転生しなければならぬことが否応でも理解させられるものであったからだ。

 だが、この時の歴史で拓馬は、五菱財閥を作らせてはいなかった。
 弥太郎も、榊直も山崎本家も存在しており、それぞれ相応に大きな企業を有するまでにはなっていたが、日本の政治に与える影響は期待するほど大きくはなく、2020年夏の東京オリンピック直前の中国、北鮮、ロシアの三ヶ国侵攻を止めることが出来なかった。
 それでも、弥太郎たちの政府への働きかけにより最低限の備えをしていたことにより、被害は一度目の歴史では200万人以上の死者であったが、二度目の歴史では開戦初期に50万人の死者が出た時点で拓馬と栞は平治の乱の時代へと再転生したのだった。

____________________________________________________________________________________

地下浪人~(じげろうにん)は、土佐藩における身分の一種、下士身分の浪人
 40年以上郷士身分であった者が、郷士株を農民や町人に売って浪人となり、地域に居付いた者
 無禄無役だが、士分の格式は維持した形であり、苗字帯刀が許されていた。
 田畑を持っている者は半農半士となり、町人として生計を立てる者もいた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み