第24話  東京メディシンの改革~決心

文字数 2,131文字

 三段跳びで課長に昇進した日は、社内中がざわざわと落ち着かなかった。

 東京メディシンの組織構成は、先ず取締役が社長と常務、それに親会社から派遣された社外取締役が3名の合計5名だ。
 部は、総務部、人事部、営業部の3部だ。
 総務部には庶務課と経理課があり、人事部には人事課1課のみである。
 営業部には、俺が所属する医薬品の卸売りが主な業務の営業課と、医薬品の卸売り以外の業務を担当する営業二課がある。
 社長以下の取締役が5名と従業員70名の合計75名の所帯だ。

 社内では、今回の中島課長の退職に伴う人事異動は、後任の任命だけでなく、迷コンビのお気に入りを大量に昇進させるために、大幅な人事異動になるのではないかと云う噂があった。
 そのため、人事異動発令の時間には殆どの社員が在席していた。
 3名の社外取締役も、普段は週に1回、それもばらばらにしか出勤しないのだが、全員そろって出勤していた。


 中島課長は、昨日、課内のささやかな退職セレモニーの後、女子社員から花束を渡され、拍手で送られて会社を去って行った。
 最後に課長の手を両手で握った。
 課長の手は、ごつごつしているのに俺には柔らかくて温かく感じられた。
 俺は、いつまでも握った手を離したくなかった。


 人事異動の結果は、俺一人の課長昇進だけだった。

 部長から辞令書の交付を受けた後、課に戻ると盛大な拍手で迎えられた。
 二週間前、病院を退院した時は、既に営業に出ていた者も多く、10名ほどしか残っていなかったが、今日は、課長の俺を含む25名全員が揃っていた。
 驚いたことに20名もの課員が、心から俺を祝ってくれた。

 彼ら彼女らは、俺の昇進にとんでもなく驚いたのだが、皆が俺の周りに集まり、口々に、   
 「「「「「「「おめでとうございます!!!」」」」」」」
 
 と、熱狂的に何度もお祝いの言葉を言ってくれた。

 営業課には、迷コンビと同じ大学出身者が4名いる。
 係長の荒木、主任の大鶴、そして平社員が2名だ。
 大鶴以下の3名は、係長の荒木の様子を気にしながらもお祝いの言葉を言ってくれた。
 係長の荒木もやや俯き加減に、

 「・・おめでとうございます・・・」

 とは言ったが、その後は終始俯いたままであった。

 (・・なぜだ? なぜなんだ? 俺じゃなかったのか? 10日も前に内示したじゃないか、なぜだ? なぜなんだ?・・・・・)

 ⦅・・荒木に内示をしていたのか。それがどうして俺に? ・・末田と沼田の腹の中を見てみるしかないな・・あんな汚いもの見たくもないが・・・⦆

 俺は、早速社長室に向かった。
 いつも通り、社長室には末田と沼田が二人一緒に揃っていた。

 「失礼します。営業課の山科です」

 末田「おう、入れ」

 「異動のご挨拶に伺いました。この度はありがとうございます。思いもかけないことで本当に驚きました

 末田
 「いやいや、君のことは以前から高く評価していたんだよ。( ふん、上手く山崎代表に取り入りやがって)」

 沼田
 「社長の仰る通り君には期待しているよ。( 俺たちの出世の道具としてな )」

 「ありがとうございます。今後も会社のため粉骨砕身働く覚悟です。(決して、お前たちのためではないがな)ついては、色々と考えていることがあります。先ずは、私の昇進に伴い、エリアの担当変更の必要があります。お客様への担当変更の挨拶が済み次第、しばらくの間、調査のため社を留守にする必要があるかもしれませんが、よろしいでしょうか・・・」

 末田
 「ああ、君の思うとおり遠慮せずに思い切りやってくれ。( どうせ営業課長も暫定にすぎんからな )」

 沼田
 (山科を昇進させたからといっても、今すぐに俺たちの提案を認めてくれと持っていくのは、さすがに(えさ)をねだるようで印象が良くないからな。2ヶ月ぐらい外廻りをして、問題さえ起こさないでいてくれたらそれでいい。)

 「ありがとうございます。それでは早速、業務に戻らせていただきます・・」


 俺は、社長室に入って二人を見た瞬間、今回の人事異動の理由を理解した。
 二人が推測したとおり、山崎代表が何らかの理由で関わっているのは確かだろう。
 だが、それだけとは考えられない。
 気は進まないが、山崎代表の考えも探るしかないなと思った。

 それにしても、こいつら末田と沼田の2ヶ月後の計画は最悪だ。
 3名の社外取締役のうち2名を社内抜擢し、実務を伴う取締役とし、さらに役職者を大幅に増員する。
 それらは全て自分たちの息のかかった者を任命するつもりだ。
 やはり、昇進するのは二人と同じ大学の出身者が多い。
 だが、経験や能力を全く無視している。
 俺を三段跳びで抜擢したことを、既成事実として利用するつもりだ。

 こいつらは、絶対支配の自分たちの派閥を作り、この会社を潰すつもりか?!!・・・

 俺がそうはさせない。

 俺は、2ヶ月以内に会社を改革することを決心した。

 (ちな)みに、こいつらは2ヶ月後、リストラ予定者を退職へ追い込むための資料整理課という追い出し部屋を作り、俺をその課長に追いやって、いずれは俺も辞めるように仕向けるつもりだ。
 笑わせてくれる。

 俺は、この日から二人のことを〔

〕と呼ぶことにした。
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