第51話  東京メディシンの改革~検証

文字数 2,152文字

 五菱商事の社長室での、東京メディシン改革案の説明からようやく解放されたのは就業時間も過ぎた夕刻だった。
 弥一郎社長や智之社長たちは、今から俺の案の検討を始めるだろう。
 ドアを出た俺は、彼らの評価が、どのようなものか知っておく必要もあるなと思った。
 午前中から昼食を挟んで夕刻まで、長時間拘束された意趣返しではないが、彼らの話を覗いてやろうと思ったのも少しある。

 俺は、何度かテレポートして、五菱商事の前にある喫茶店の窓際のテーブルのソファーに座った。
 周りに客が何人かいるが、誰も俺が突然現れたとは思っていない。
 俺以外の客や店員は皆、俺が数分前に来店し、コーヒーとサラダにスープ付きのトーストセットを注文したと認識している。
 俺は、サラリーマンが仕事帰りに、しばしくつろいでいる感じのまま、ほんの1~2秒前までいた社長室の中を覗いた。


 拓馬が帰った後、五菱商事に残った9名(竹田製薬工業の智之、森山、高田裕次、里帆の4人と五菱商事の弥一郎、荘田、吉岡孝太郎の3人、さらに五菱重工の弥太郎、豊川の2人)は、しばらくの間、声が出なかった。
 拓馬の詳細な資料やビデオの録画は、驚愕するものであり、皆で拓馬を質問攻めにしたのだが、それでもまだ目を通したのは一部に過ぎなかった。
 彼らは、時間が経つのも忘れて拓馬に質問していたのだが、窓の外がようやく夕刻の気配に満ちたのに気が付き、拓馬を解放したのだが、拓馬が部屋を出た途端に彼らも疲れをどっと感じ、脱力したようになっていた。

 しばらくして、森山が発言をした。

 森山
 「彼は、これをどうやって調べたんでしょうか。「協力してくれた仲間がいました」とは言っていましたが、「証言をビデオに撮らせてくれた人以外、その人数や氏名を明かす訳にはいきません」とも言っていました・・・」

 裕次
 「私たちの10年を思い出します。彼もこれを10年かけて作ったとしか思えません。すると、会社に入った時からということになります。事実と認めざるを得ない内容ですが、普通は信じられないことです」

 智之
 「彼が録画した内容も、まだ一部しか確認していませんが、まさに要所要所を押さえたものです。場所の選定や機材の設置など、只々感心するというより、未だに信じられないほどです」

 里帆
 「彼の人事刷新計画は、驚愕の一言です。現社員のみならず、辞めた社員まで全員について資質、適正まで分析し、適所への配置が考えられています。
 しかも大幅な組織人員の変更にも関わらず、業務には最小限の影響で済むように配慮されています。
 従業員数も今の70名から倍の140名になりますが、これを全員ここまで把握し、配置できると云う事が私には驚きを越して衝撃です。
 中小の会社は人員、組織に余裕がありません。人事は却って難しいんです。
 私にはここまで出来ません」

 弥一郎
 「事業計画はどうですか」

 裕次
 「私は、医療面から多少分かるだけですが、問題ないというより色々な可能性があるんだと感心しています。成功すれば素晴らしいと思います」

 孝太郎
 「私は、彼の調査、分析、企画力に舌を巻いています。彼のような人材が埋もれていたことの方が驚きです。これは決して、親会社の竹田製薬工業さんを非難したり揶揄しているのではありません」

 荘田
 「これだけのものを作るには大勢の協力者がいたはずです。もしかすると、会社の中はほとんどが彼の協力者とみるべきではないでしょうか。
 彼の人柄からして、それが良い方向に向かったと言うべきでしょう。もし、これが逆だったら怖いと思いました」

 俺
 (すみません・・全部ずるです・・恥ずかしい(/ω\)・・聞かない方がよかった・・・)

 俺は、とぼとぼと家路に就いた。


 弥一郎らの検証、検討はその後も続き、各人から色々な感想が述べられた。
 結局、資料やUSBのコピーを取り、各社で持ち帰り、出来るだけ裏付けを取ることにした。
 三社への割り振りが決まり、五菱商事が、最終的な取りまとめを行うことになった。
 途中経過も、五菱商事が自社の分を含めて取りまとめ、随時各社へ知らせることとにした。
 念のため、ビデオの録画は何らかの合成などの加工が施されていないか五菱重工で調べることにした。
 検証期間は20日間とした。

 20日後、検証の総括が行われた。

 ビデオには何ら加工した痕跡は無かった。
 相当数の証言者の裏付けも取れたが、どれも真実と認められた。

 拓馬の会社での評判は、末田と沼田を除いてすこぶる良く、中でも、営業課の直接の部下である係長と主任は、元末田・沼田派であったが、現在は拓馬の信奉者とまで言われているそうだ。

 山科拓馬は、課長就任後、隠していた才能を表すようになり、会社中がその話で持ちきりの中、末田と沼田の二人だけが、つんぼ桟敷に置かれていることも分かった。

 これらのことから、末田と沼田の二人は、社員からそっぽを向かれていると思われると結論付けられた。

 拓馬からは、拓馬が改革案を提出してから一ヶ月後には、末田と沼田の二人から臨時取締役会の提案が出されるだろうと告げられていたが、その日まで後10日である。

 臨時取締役会の対応についても竹田製薬工業、五菱商事、五菱重工の三社で協議し決定された。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み