第124話  蔵入り~令和の国難に向けて 3

文字数 2,278文字

 2020年1月16日の蔵入りは、終盤を迎えていた。
 議論と検討もほぼ終えた頃、榊直が、発言を求めた。

 拓馬:
「直、何だ?」

 榊直:
「始祖様、我々山崎一門は現在、五菱グループ、山崎本家の山崎グループ、そして榊グループの三グループが連携して活動していますが、今後は三グループとも山科グループの傘下に入らせていただけないでしょうか。
 これは始祖様が復活されたとき、そうしようと前回の蔵入りの後、皆で相談した結果の総意であります。
 是非お許しいただきますようお願いいたします」
 直のこの発言が終わると、全員が席を立ち拓馬に深く頭を下げたのだった。

 拓馬:
「山科グループ? 俺は始祖であっても、現世では東京メディシンの社長に過ぎないぞ」

 直:
「存じております。ただ、始祖様が復活された以上、我々が仰ぐのは始祖様以外にありません。           
 それと、始祖様は、その都度の蔵入りでの指示の中に、さらに先の未来についての準備を忍
ばせておいででした。
 今回の蔵入りについても、もしお許しいただけるならお尋ねしたいことがあります」

 拓馬:
「俺は今世では宇宙生命体としての特殊な能力はあるが、肉の身を持って今世を生き、歴史を刻む人間の一人でもある。大概のことなら話すことも許されると思う。尋ねたいことがあれば()くがよい」

 直:
「それではお尋ねいたします。
 まず、現在は、孫の直哉が代表を務めます『日本

社』の設立でした。
 72年も前に始祖様は、新しい通信技術の開発、無重力での医学や行動科学の研究、ロケット技術や宇宙空間での活動を前提とした新素材の研究など五菱グループなどとの連携をご命じになられました。
 これらは量子暗号通信など一部を除き、今回の国難というよりその先を見つめたものではと推察いたしております。
 また今日の蔵入りでも『超技術立国』という言葉をお使いになりました。
 これも今より先の未来において日本の進むべき道の一つなのでしょうか。
 このほかにもあるのでしょうか。
 さらにその先に日本はどうなるのでしょうか。我々はどのような未来を信じ夢見ることが出来るのでしょうか。
 許される範囲で結構です。なにとぞご示唆をお願いいたします」

 拓馬:
「さすが榊直というべきか。そなたの言うとおりである。
 未来の日本の繁栄の基は、まず教育であり、それは不変である。
 その上に、具体的な国力と繁栄を約束する三本の柱がある。
 『宇宙開発』と『海洋開発』そしてそれらを支える『超技術立国』である。
 この度の国難が、どのような結果であれ、日本の進むべき繁栄の道はこの三つである。
 これらは現状、貿易摩擦が最も少なく確実に国益をもたらすものである。
 『海洋開発』は、広大な経済的排他水域での資源開発で日本は資源大国となるだろう。
 『宇宙開発』は、もっと先の未来になるが、人類が総力を挙げて取り組む事業となる。
 そして、これらを支えるのが『超技術立国』である。
 日本はこれらを達成する可能性に満ちているのだ。
 世界の気候変動はますます激しさを増していくだろう。
 地球温暖化により海底の海流が止まれば、大氷河期がやってくる。
 そうなれば民族大移動が始まり、世界秩序は乱れ混乱するだろう。
 その事態を阻止すべく世界が立ち上がるのだが、その中心が日本なのだ。
 250年後、日本を中心とした世界連邦が設立される。いや、設立させなければいけない。
 俺と母さんは、その時代に再び転生復活するだろう」

 あまりにも壮大で想像もしていなかった拓馬の話に、拓馬と栞以外のその場の全員が呆然とし、言葉を失った。
 だが、誰一人として拓馬の言葉を疑う者などいなかった。
 かろうじて、直が再度発言した。

「そのような重要なことまでお教えいただき誠にありがとうございます。
 将来の日本と世界、そして子孫、日本人、世界人類のため、今は私たちの使命を一命に変えても果たす覚悟を新たに致しました」
 直の発言と共に全員が深々と頭を下げた。
 すると、直がさらに、

「二つだけ気になることがございます。
 まず始祖様、母君様が次回転生復活されるとき、我々も同じ時代に転生し、ともに使命に働くことが出来ましょうか?
 次に、海洋開発については、未だ具体的な準備に取り組まれていないような気がするのですが?」

 拓馬:
「次回の転生だが、皆と再び、(まみ)えることは出来る。しかし強制ではない。皆の意思が優先される」
 これに対しては、全員が口々に異口同音に「私は、必ず希望します」と叫んだのだった。

 拓馬:
「皆が希望してくれて嬉しい。ありがとう」
 拓馬は、素直に感謝の言葉を口にした。
 さらに、

「海洋開発の件だが、これについては適任者がいる。
 全く新しい人物だ。来年になるだろうが、時期が来たら皆に紹介する。
 それまで待ってくれ」

 その後、五菱、榊、山崎本家の三グループが山科グループの傘下に入ることについて、改めて話し合った。
 直たち参集者は、ただちに山科グループを名乗ることを希望したが、拓馬は、不自然にならないよう当座は蔵入りの参集者だけの合意とし、拓馬の計画している事業に併せて時間をかけ、各グループ内の総意形成と持ち株の形態などの実体を整備していくこととした。


 今回の蔵入りは終了した。
 蔵入りの参集者は、二年後に迫った前回までの歴史では悲惨な結果となった2022年2月のロシア連邦(ロシアンゴル共和国連邦)、中国(中華大民共産共和国)、北鮮(朝鮮社会主義共和国)三ヶ国の軍事侵攻を阻止すべく闘いの日々に身を投じていくのだった。
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