第115話  二度目の歴史~その後    

文字数 1,083文字

 拓馬と明子の婚儀は滞りなく行われ、また、白木蓮が咲く季節となった。
 明子の懐妊がわかり、山科家は喜びに包まれていた。
 拓馬は、初めて子を授かったことに感無量であった。
 ノアを発って(およ)そ10億年と5万年、このような生活があろうとは思ってもみなかったのだ。
 不思議で有難く、まさに神仏に感謝し祈る気持ちで幸せを嚙みしめていた。

 明子には、婚姻の前にすべてを打ち明け、能力も見せた。
 拓馬は、最初の歴史で初めて明子を見たこと。一目で明子が好きになったこと。
 だが、宇宙生命体である拓馬は、結婚は出来ないと諦めたこと。
 転生して二度目の歴史で人の身を得、再び明子に(まみ)え結婚の申し込みを決意したこと。
 これから何度生まれ変わろうと気持ちは変わらないこと。明子を愛し続けることを誓った。

 さらに、なぜ拓馬と栞が生まれ変わったかということも話した。
 日の本は、未来において多くの国と戦い戦渦にまみれるが、さらにその70数年後に現在は宋がある大陸の国や高麗がある地域、さらには遥か北方の国が攻めてくる。
 自分と母はそれを防ぐ使命があると確信していると。

 だが、自分は今、ただ明子と共に住む日の本を守りたい、明子と生まれてくる我が子や家族、領民を守りたい、いつまでもこの幸せが続くように使命を果たしたいと告げたのだった。
 
 明子は、想像をはるかに超えた拓馬の話を全て理解することは出来なかったが、嘘のない拓馬と栞の話は何の疑いもなく信じられた。
 明子は、ただ自分に出来ることをひたすら為し、拓馬を愛し、支えていこうと決意したのであった。

 拓馬と明子の愛情の強さは、拓馬が、その後の歴史の中で生まれ変わり覚醒するとき、いつも栞とともに明子の存在が重要な要素となるのであった。

■■■

 世は、貴族社会から武家社会へと急激な変化と戦乱が続いた。
 拓馬と栞は、天皇と国体の護持に奔走したが、山崎御所では、明子や子らとの穏やかな生活であった。
 後年の春のある日、拓馬、明子、栞それにもはや壮年の益荒男となった榊清丸の四人は、白木蓮の丘に登りささやかな酒宴を楽しんだ。
 その際、京から招いた高名な絵師に四人の等身大の姿絵を描かせた。
 その絵を拓馬らは大層気に入り、折に触れては皆で眺めたのだった。
 姿絵は山崎家の家宝とされたが、栞、拓馬、明子と順に亡くなると、ある時から所在がわからなくなったのだった。
 宇宙生命体となった拓馬と栞が、明子が亡くなったあと異空間に仕舞ったのだった。

 四人を描いた姿絵が再び現れるのは、凡そ800年後の昭和10年と昭和15年、昭和17年さらに令和元年の蔵入りである。
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