第83話 遥~凋落
文字数 1,348文字
2022年の正月、遥は、フランス語教室の帰りに、恒例となっている食事会に参加した。
今回は、年頭の食事会と云う事で東京パレス・ヘストンホテルの最上階にあるレストランでの開催だった。
遥は、20代後半の時に新調した一番のお気に入りの服を着ていた。
昼夜兼用でそのまま夜のディナーでも、参加できるようなゴージャスでそれでいてクラシックな感じの高級な服であった。
ただ、遥も30才を越え、肉付きが少しだが20代の時と比べると気になるようになっていた。
服も少し窮屈になっていたが、矯正用下着で何とか着用出来たのだった。
男からすれば、30才代女性には20代とは違った魅力があるのだが、遥は、エステの回数を増やすことを真剣に考えたほどであった。
だが、夫の秋元は前年の4月から、五菱自動車の生産工場に異動になっており、今後の生活設計に若干の不安を感じていたので、節約のため、週一のエステの回数は増やさないことにしたのだった。
東京パレス・ヘストンホテルのレストランでの食事は最高に美味しかった。
だが、遥は以前のようには楽しめなかった。
夫が、生産工場に異動になったからだ。
しかも、3年以内に結果を出せなかったら、本社に戻るどころかフランスへの赴任も無くなると聞いて暗澹たる気持ちになったのだった。
その日の食事会でも、参加者の遥に対する態度は、ぎこちないものであった。
以前は、夫の秋元の話題が出ることも多く、その際は夫のことを羨ましがられたのだが、今では皆が気を使い、秋元の話題は全く無くなった。
遥は、食事会が苦痛になっていた。
フランス語教室に通う日は、朝から体も重たく感じるようになっていた。
だが、3年の期限までまだ2年以上ある。
遥は、夫の挽回を心待ちにしていた。
食事の後は、数人の仲の良いメンバーでショッピングに行くことも、時たまあったのだが、この頃では、用事があるからと一人で帰ることが多くなっていた。
遥は、この日も真っ直ぐ帰ることにしたのだが、急いで帰る気にもなれず、一人ロビーのソファーにぼんやりと座っていた。
そこで遥は、思いもかけない人物を見かけることになった。
拓馬が、エレベーターで数人の外国人と降りてきて、ロビーで立ち話をした後、その外国人たちとは別れたのだが、すぐにロビーで待機していた別の外国人グループとソファーに座って話し始めたのだった。
遥と拓馬たちは、かなり離れていたので、拓馬が遥かに気付いた様子はなかった。
拓馬は、どう見ても20代の青年にしか見えない若さだった。
拓馬と外国人たちの話は、割と短く、外国人たちは、ロビーを去って行った。
拓馬は、ソファーに座ったまま近くにあった新聞に目を通しているようだった。
拓馬は、今では知らない人はいないとさえ言われているほどの有名人だ。
何故だかは知らないが、五菱グループでも最重要人物として扱われているらしい。
遥は、拓馬に頼めば、五菱自動車にも夫のことを口利きしてくれるのではないかと思ったが、いまさら拓馬に頭を下げる気にはどうしてもなれなかった。
しかし、それでも下げるべきか躊躇している間に、拓馬は立ち上がり、エレベーターに向かって歩いて行くと、そのままエレベーターの中に入ってしまったのだった。
今回は、年頭の食事会と云う事で東京パレス・ヘストンホテルの最上階にあるレストランでの開催だった。
遥は、20代後半の時に新調した一番のお気に入りの服を着ていた。
昼夜兼用でそのまま夜のディナーでも、参加できるようなゴージャスでそれでいてクラシックな感じの高級な服であった。
ただ、遥も30才を越え、肉付きが少しだが20代の時と比べると気になるようになっていた。
服も少し窮屈になっていたが、矯正用下着で何とか着用出来たのだった。
男からすれば、30才代女性には20代とは違った魅力があるのだが、遥は、エステの回数を増やすことを真剣に考えたほどであった。
だが、夫の秋元は前年の4月から、五菱自動車の生産工場に異動になっており、今後の生活設計に若干の不安を感じていたので、節約のため、週一のエステの回数は増やさないことにしたのだった。
東京パレス・ヘストンホテルのレストランでの食事は最高に美味しかった。
だが、遥は以前のようには楽しめなかった。
夫が、生産工場に異動になったからだ。
しかも、3年以内に結果を出せなかったら、本社に戻るどころかフランスへの赴任も無くなると聞いて暗澹たる気持ちになったのだった。
その日の食事会でも、参加者の遥に対する態度は、ぎこちないものであった。
以前は、夫の秋元の話題が出ることも多く、その際は夫のことを羨ましがられたのだが、今では皆が気を使い、秋元の話題は全く無くなった。
遥は、食事会が苦痛になっていた。
フランス語教室に通う日は、朝から体も重たく感じるようになっていた。
だが、3年の期限までまだ2年以上ある。
遥は、夫の挽回を心待ちにしていた。
食事の後は、数人の仲の良いメンバーでショッピングに行くことも、時たまあったのだが、この頃では、用事があるからと一人で帰ることが多くなっていた。
遥は、この日も真っ直ぐ帰ることにしたのだが、急いで帰る気にもなれず、一人ロビーのソファーにぼんやりと座っていた。
そこで遥は、思いもかけない人物を見かけることになった。
拓馬が、エレベーターで数人の外国人と降りてきて、ロビーで立ち話をした後、その外国人たちとは別れたのだが、すぐにロビーで待機していた別の外国人グループとソファーに座って話し始めたのだった。
遥と拓馬たちは、かなり離れていたので、拓馬が遥かに気付いた様子はなかった。
拓馬は、どう見ても20代の青年にしか見えない若さだった。
拓馬と外国人たちの話は、割と短く、外国人たちは、ロビーを去って行った。
拓馬は、ソファーに座ったまま近くにあった新聞に目を通しているようだった。
拓馬は、今では知らない人はいないとさえ言われているほどの有名人だ。
何故だかは知らないが、五菱グループでも最重要人物として扱われているらしい。
遥は、拓馬に頼めば、五菱自動車にも夫のことを口利きしてくれるのではないかと思ったが、いまさら拓馬に頭を下げる気にはどうしてもなれなかった。
しかし、それでも下げるべきか躊躇している間に、拓馬は立ち上がり、エレベーターに向かって歩いて行くと、そのままエレベーターの中に入ってしまったのだった。