第102話  72年ぶりの蔵入り~参集

文字数 1,032文字

 蔵入りの指示を受けた者たちは、翌日、一日をかけて全員が高知空港に降り立った。
 それぞれが事前に到着時間を山崎本家に連絡していたので、空港には到着時間に合わせて迎えの車が待機していた。
 山崎本家にある車では台数だけでなく運転手も足りず、榊家からも車を出し、応援の要員が出たのだった。

 日本最大の企業グループの代表をはじめ重鎮たちが、年末にも拘わらず大挙して土佐の山崎本家に参集するのである。
 目端の利く経済記者であれば、何事かと注目するであろう。
 参集者は、なるべく人目に付かない注意が必要だった。
 山崎家本家に到着した参集者は、邸内から外に出ることなく、全員が集まる夕方まで思い思いに時間を過ごしたのだった。
 その間に榊直直属の部下たちによって、盗撮機や盗聴器が設置されていないか邸内は隈なく点検された。

 夕方になり全員が集まったところで、山崎本家当主の直正と榊直から翌日の蔵入りについて説明があった。
 直正からの一般的な説明が終わった後、榊直が補足の説明を行った。
 その際、直は今回の最も重要な事を話した。
 それは、
 お指図をされるお方が、今回初めてその姿を現されること。
 そのお方は始祖様ではないが、それに準ずるお方であること。
 であった。
 その時、それまで静かに傾聴していた全員が、思わず驚きの声を漏らしてしまった。
 だが、皆の驚きはこれに(とど)まらなかった。
 直の話はさらに続き、
 始祖様は、お姿を現されないが、その容姿と重要な縁者が姿絵で明らかになること。
 また、今回のお指図は、日本国の近い将来についての警鐘のみならず、始祖様に関することも含まれており、我らにとってこれまでにない重要なものになるだろう。
 お指図の一部については、山崎直正と山崎弥太郎及び榊直の三名が、秘密裡に今上陛下に奏上する必要があるだろう、と参集のご指示をされたお方のお言葉があったこと。
 以上のことを話し終えると、それを聞いていた全員が声を発することも出来ず、ただ息を呑むばかりであった。
 最後に直正から、
 「皆十分承知のことと思うが、蔵入りの事は勿論、蔵入りで知り得た内容を決して口外してはならない」
 との注意があり、蔵入りの事前の説明と注意は終了したのだった。

 その後、全員が雑談に興じることも無く、夕食と入浴を済ませ就寝したのだが、朝まで熟睡できた者は一人もいなかった。
 それは、ただ一人戦争を経験し、何度も死線を潜り、誰よりも明日の内容を知っているはずの榊直も同様だった。
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