第75話  東京メディシンの新しい出発~それぞれの行く末

文字数 1,354文字

 営業課係長の荒木は、営業課内に設けた「薬剤師開業支援プロジェクト」のリーダーに任命し、本来の医薬品卸販売の方は最小限の負担に抑えた。

 係長相当職として横滑りであったが、拓馬は、彼にコンサルティング業務の開拓を期待したのだ。
 泥沼コンビの派閥に属していた頃の荒木には、傲慢な所があったのだが、拓馬の外廻りに同行してからは、そのような欠点が影を潜めるようになっていた。
 荒木は、自身で開業支援の事例を集め、問題点や方策の研究を行っていた。
 また、薬剤の知識や医療機器の理解を深め、それに関連した語学にも取り組んでいるのを拓馬は知っていた。

 荒木は、何事も突き詰める性格であり、本来は、他人を思いやる気持ちもあったので、コンサルティングは適職ではないかと拓馬は考えたのだ。

 荒木は、後に薬剤師だけでなく、医院の開業支援、それらの経営相談、経理相談、市場調査、顧客開拓、接客研修など医療薬剤関係者の間では知らぬ者が無いほどの第一人者として、日本中を飛び回ることになる。

 営業課主任の大鶴は、復活した営業三課に配属し、社長室内の福祉施設プロジェクトのメンバーも兼務させた。
 彼は、そそっかしいところがあるが、憎めないところや愛嬌があり、営業三課が取り扱う障碍者(しょうがいしゃ)や老人用機器についての知識や取り扱いについての理解を深めさせるとともに、幾つかの施設に赴任させて経験を積ませる考えだった。

 後に、大鶴は、赴任したどの福祉施設でも利用者のみならず、近隣の住民の間でも人気者となった。
 名物所長として有名になり、彼を主人公のモデルにした映画まで作られることになるのだが、拓馬もそこまでは予見していなかった。

 営業課の課長には、拓馬が龍馬君を助けて病院に入院し、退院後の初出勤した日に、快気祝いをしようと皆に呼び掛けた広川一郎を抜擢した。
 彼は、拓馬の一年先輩なのだが、気さくな性格のため、拓馬にも先輩だからと言ってかしこまらずに普通に話せよと言い、拓馬も友達のような話し方をしていたのだ。

 広川は、明るく前向き、公正で、かつ清濁併せ呑む懐の深さがある。
 係長の荒木と課員の間に険悪な空気が流れた時でも、彼が中に入るといつの間にか流れが変わり、皆が一つになると云う不思議な魅力があった。

 課長在職中の中島も、後任は、広川にしてほしいと部長や泥沼コンビに懇願していたほどであったし、拓馬もそう思っていたのだ。

 広川は、課長昇進後、課員をみごとにまとめ上げ、目覚ましい活躍をする。
 部制が復活した時の初代部長に任命されただけでなく、拓馬から数えて四代目の社長として、東京メディシンの発展に大いに貢献したのだった。

 拓馬は、社員の適正や個性を活かすために、将来を見据えた組織と人員の配置を行い、面接を通して一人一人にアドバイスを行った。

 この時の社員140人全員に行った面接は、その後の社員一人一人の生き方や将来に大きな影響を与えただけでなく、後に東京メディシンの飛躍的大発展の出発点として、語り草になるほどのものであった。

 経済界のみならず、各種研修事業者や大学の講義でも扱われることになるのであるが、当の拓馬は、まさかそこまで評価されるとは夢にも思っていなかった。
 すでに、拓馬の能力では当たり前のことをしたに過ぎなかったからだ。
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