裏切られた怒り、そして無念

文字数 831文字

 次第に涙声になる『マニュエル』。


 『デスティニイ』の涙の訴えも、
『マニュエル』の心に届くことはなかった。


 嘆きの涙で顔がくしゃくしゃの
『マニュエル』。


 その表情は、あまりにも痛々しく、誰も
『マニュエル』に目を向けていられないほど
であった。



 心から信じていた唯一の家族の裏切り。


 家族だけが救いだったあの頃。


 『マニュエル』の心には、(くや)しさと無念さ
渦巻(うずま)いていた。



 「私が、もし父親なら。。。


 私なら、例えどんなに貧しかろうと絶対に

自分の子どもをこの手から離しはしません。


 ましてや敵に売るなどと。


 そんなことをしたら、その子どもがどんな

残酷(ざんこく)な人生を歩むことになるのかぐらい誰で

も想像できるはずでしょう。


 たとえ自分が貧しかろうと、子どもも

自分と同じ人生を歩むとは限らない。


 子どもは子ども。


 子どもには、子どもの人生があったはず。


 でも父親は、自分の人生そのものが、

子どもの人生だと勝手に思い込んだ。





 子どもというものは、親の背中を見て

育つもの。


 貧しい中でも精一杯育てれば、親に感謝

こそすれ、(うら)むことなどないはずです。



 私が神父であった頃、人間であった

『サタン』を救ったのは、おそらく信じて

いた母親に救いの手を差し伸べられずに

振り払われた『サタン』を哀れに思えたから

でしょう。


 家族とは一番絆の深き存在のはず。


 その家族から見捨てられた『サタン』の

気持ちに私は同情したのだと思います。


 もし私がその立場だったら、どんなに(つら)

思いをしただろう。



 家族なのに。。。





 そして、今度は。。。


 この私が、自分の家族にその『サタン』と

同じ目に()わされた。


 そういうことでしょう。」


 その『マニュエル』の魂の叫びは、人の命
(とうと)さを誰よりも知っているが(ゆえ)


 自分さえ楽になれば家族など。。。


 子どもなど犠牲にしても構わない。。。


 ()が子の命が危険にさらされようが、
あえて故意に敵の国に売るというその父親の
行為そのものを、『マニュエル』は絶対に
許すことができなかったのである。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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