『ケツァール』の壮絶な過去 (三)

文字数 1,058文字

 そのころ、村では不気味な(うわさ)があった。



 その噂とは。。。


 敵国のスパイが仲介人を(よそお)ってこの国に侵
入し、子供を買いあさっているというもの。


 国に連れ帰り、そこで兵士やスパイとして
養成し、その国に忠誠(ちゅうせい)を誓わせる。


 かつての祖国に逆にスパイとして侵入さ
せ、殺人や窃盗(せっとう)を強要する。


 子供を手に入れるためならいくらでも(かね)
積むのだという恐ろしい噂。






 先日訪れた仲介人は、何度も何度も
『ケツァール』の家にやって来た。


 そして執拗(しつよう)に『ケツァール』を養子にした
いと言ってきたのである。


 その度にずっと断り続けてきた両親だった
が、やって来る(たび)に増えていく金貨の量に、
とうとう父親は、相手は本当に資産家なのか
とその仲介人に尋ねるようになった。


 「その資産家の住所を教えてほしい。


 本当にそうなのか確かめたい。」


 そう言う父親の言葉に対し、
『ケツァール』の兄は、絶対に応じたらだめ
だと父親を(さと)し続けた。


 自分が何とかする。


 一生懸命働くからそんな男の口車(くちぐるま)に乗らな
いようにと。



 ところが父親は、仲介人からその資産家の
住所を聞き、町まで会いに行ってくると言い
出すようになった。


 翌日、町から戻ってきた父親は、仲介人の
言葉は本当だったと兄に伝えた。



 そして。。。


 「今のままではいつまで()っても生活は楽

にはならない。


 お前たちを学校に行かせてやることもでき

ない。


 あの子が養子になれば、みんなが助かる。


 あの子も私たちも貧しい暮らしから脱出で

きる。


 (かね)というものはどこまでも付いて回るもの

なんだ。


 (かね)がなければ生きていくことはできない。


 お前にもそれはよくわかっているだろう。


 (かね)があれば医者に診てもらえる。


 (かね)があれば食べたいものが買える。


 (かね)があれば服も買える。


 (かね)があれば。。。(かね)があれば。。。」


 そう言いながら父親は言葉を詰まらせてし
まった。


 どんなことがあってもけっして人前で涙を
見せなかった父親が、涙をボロボロ流し、
言葉を詰まらせる姿を見て、兄はもうこれ以
上父親を責めることができなかった。


 資産家の養子になることは確かだと言う
父親の言葉を信じ、兄は愛しい弟を仲介人に託した。





 そして別れの日。


 兄は仲介人に言った。



 「その資産家の方に伝えてください。


 必ず弟を幸せにしてください。」と。


 その仲介人はただ黙ってうなずき、
弟を連れて行った。





 兄は信じた。


 弟が幸せになってくれると。


 そして笑顔で弟を見送った。





 まさかこれが、兄弟として生きる最後の日
になるとは知らずに。



 そして、将来あまりにも残酷(ざんこく)な再会が
待っているとも知らずに。 


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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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