『満』の意外なひと言

文字数 1,428文字

 「話は変わるけど、『輝羽』ちゃん、

あの大講堂で入学式があった日のこと、

覚えてる?」


 『満』が突然そんなことを言い出した。


 「えっ?」


 「僕、あの時。


 なぜだかすごく緊張してて。


 その時、『輝羽』ちゃん。


 僕に話しかけてくれたよね。


「「隣の席に座っていいですか?」」って。」


「そうね。 覚えてる。」


「『輝羽』ちゃん。


笑顔で僕に話しかけてくれて。


『輝羽』ちゃんのその笑顔を見たら、

急に今までの緊張が一気に吹っ飛んで、

落ち着いてきたんだ。」


「そうなの?」


「うん。


『輝羽』ちゃんて、もしかしたらきっと人を

安心させてくれる力を持っているのかもしれ

ない。


 ()やしというか。。。


 なぜかその時、「「大丈夫よ。」」


 そう言う声が聞こえたんだ。」


 「私は全然そんな自覚ないけど。。。」


 「いや、『輝羽』ちゃんは、きっと

何か持ってるよ。」


 そんなことを話しながら、二人は大講堂へ
続く廊下を歩き始めた。


 「ねえ。『輝羽』ちゃん。」


 「なに?」


 「実はさ。。。


 今日は亡くなった叔母さんの誕生日だった

日なんだ。」


 「えっ? そうだったの。。。?


 叔母さんの。。。」


 「うん。


 「叔母さんは、薔薇の花が大好きだった

から。


 それも。。。なんて言っていいのか、

赤とか白じゃなくて。


 ローズピンクのような色の薔薇。」


 「そう言えば、叔母さんの遺言の中にも

叔母さんが『ニーナ』だった時、ローズ

ピンクの薔薇の花が大好きだって書いて

あったよね。」


 「うん。


 毎年必ず叔母さんの誕生日にその薔薇を

買うんだ。


 さっき大学の近くの花屋さんに寄ってみた

らローズピンクの薔薇があったから。。。」


「そうなんだ。」


「いつもは花束にするんだけど、なぜか今回は

《ブーケ》にしてもらった。


 ローズピンクの薔薇の花の《ブーケ》。


 ほらっ。」


 そう言いながら、『満』は、そのローズ
ピンクの薔薇の《ブーケ》を『輝羽』に見せた。


 「わあ~。きれい。。。


 ステキ~。」


 「本当は二十本買いたかったんだけど、

十五本しかないって言われてさ。」


 「あら~。


 それはちょっと残念ね。


 二十本の薔薇の花の《ブーケ》。


 『アレン』にとっても、『マニュエル』に

とっても、そして『ニーナ』にとっても、

その二十本の薔薇の花の《ブーケ》には

とっても深い意味があるものね。」


 「うん。」


 「あらっ? でも。。。」


 「どうかした? 『輝羽』ちゃん。」


 「『満』君。 その《ブーケ》。


 なぜかとってもいいプレゼントになる

かも。。。」


 「うん。


 今日、オリエンテーションが終わったら、

僕の部屋にある叔母さんの写真に供えようと

思ってるんだ。」


 「いいえ。


 叔母さんの写真に供える必要はないわ。」


 「えっ? どういうこと?」


 「とにかく、それは『満』君が誰かに

プレゼントする《ブーケ》になるわね。」



 「えっ? 誰かに。。。?


 それはないよ。


 だって、この《ブーケ》は、叔母さんのため

に買ったんだから。」


 「そのうちわかるわよ。


 そして『満』君も、今日とっても素敵な

プレゼントをもらえそうよ。」


 「プレゼント?


 それって誰から? 


 どんなプレゼント?」


 「う~ん。。。


 もしかしたら【神様からの贈り物】なの

かも。。。」


 「神様からの。。。何だろう。。。


 『輝羽』ちゃんがそう言うなら、本当に

もらえそうだよね。


 その【神様からの贈り物】を。。。」


 そんな何気ない会話をしながら、二人は
大講堂へ続く廊下をずっと歩いていた。


 大講堂までは、かなり長い廊下が続く。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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