『デスティニイ』の涙 

文字数 1,513文字

 ポタッ。


 美しい金色の水滴が、上から落ちて来た。




 ポタッ。。。ポタッ。。。




 まるで黄金の雨の(しずく)のような水滴が、
『デスティニイ』の(まと)っている金と銀に
輝くマントをつたって流れ落ちて来たので
ある。





 それは。。。



 『デスティニイ』の流した涙であった。


 山ネコの『ビリー』として、ずっと
『マニュエル』の(そば)にいた
『デスティニイ』。


 その時から感じていた『マニュエル』の
自責の念。


 『デスティニイ』は、いつも陰で泣いて
いたのである。





 「『マニュエル』よ。

 
 どうかもう。。。


 もう自分を責めないでくれ。。。


 我は。。。我は。。。


 汝の。。。


 その苦しむ姿を視ていられない。。。





 (つら)い。。。





 すまない。。。


 我のせいで。。。


 許してくれ。。。


 あの時、汝は、我をじっと見つめながら

こう言った。


 「「自分は、《神》に見放されているのか

と思っていた。


 だから、こんな苦しい人生なんだ。」」


 その言葉を聞いた時。


 我は、この胸が。。。


 この胸が、張り裂けそうであった。


 我は、目の前の汝に()びた。


 ()が失態が、汝をそこまで追い込んで

しまった。


 汝のせいではない。


 誰のせいでもない。


 すべて。。。


 すべて我のせいだ。。。



 「「《神》に見放されてなどいない。


 汝こそが、《神》だ。


 この我など、汝の足元にも及ばぬ。」」


 そう叫びたかった。



 使いの者より汝からの遺言を受け取った

時。。。


 申し訳ない気持ちで一杯であった。


 最期(さいご)まで、自分ばかり責め続けて()った

汝に。。。


 我は。。。


 我は言葉すら掛けることができなかった。


 何も。。。何もできなかった。


 あれほど《神》として無力さを感じたこと

はない。


 『マニュエル』よ。


 どうか。。。


 どうか。。。もうこれ以上。。。


 自分を責めないでほしい。。。


 責めるなら我を。。。


 この(おろ)かな我を責めてくれ。。。」



 流れ続ける『デスティニイ』の、自らに
対する呵責(かしゃく)の涙。


 『デスティニイ』もまた、『マニュエル』
が苦しみ続けた五百年もの間、自らが招いて
しまった取り返しのつかない罪の重さに
ずっと心痛めていたのである。


 胸が締め付けられるほどの痛ましい
『デスティニイ』の謝罪の言葉。



 『マリア』は、『ローマ』の胸に顔を
うずめて泣いていた。


 三羽の鳥たちは、互いを支え合うように
して立ち尽くしていた。


 『輝羽』も『満』も、ただ泣いていた。





 「私は。。。


 私は、あなたを許せないんじゃない。


 父親を。。。


 敵に子供を売った父親を許せないんです。


 例え、運命をあの『サタン』に塗り替えら

れたとしても、必ずしも『サタン』の思う

ようになるとは限らない。


 何が《善》で、何が[悪]なのか、自分の

心に尋ねれば誰にでもわかるはずです。


 与えられた運命という〈レール〉にただ

乗るだけで、運命 (まか)せにすることなんて誰に

でもできるんです。


 変えたいなら、それに納得できないの

なら、〈レール〉から(はず)れても自分の信じた

道を進めばいい。


 自分を信じて生きていけばいい。


 逆らってでも突き進めばいい。


 揺るがない信念があれば、できたはずだ。


 でも。。。


 でも、ただその〈レール〉に乗って、

〈レール〉の成すがままに生きていくことを

あの父親は選んだ。


 楽に生きていきたかったから。


 すべてを貧しさのせいにして。


 自分さえ楽に生きていければそれで

良かったんだっ。」


 『マニュエル』のこの叫びに、父鳥はいた
たまれずうずくまり、ついには気を失って
しまったのであった。



 「みんな。。。


 みんなそこにいる父親のせいです。


 こんなことになったのは。。。


 みんな。。。みんな。。。


 許せない。。。絶対に。。。



 私には、もう家族に対しては、憎悪の念

しか残っていません。」

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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