悲劇の始まり
文字数 2,725文字
『巨人』が号令をかけた。
ギギギ。。。
そのドアの
けてソファに腰掛けていた父親は、息子が入
って来たのだと思っていた。
そして息子に声をかけたのである。
「『イヴァン』なのか?」
ところが、その息子の『イヴァン』は返事
をしない。
目の前に向かい合って座っている妻と娘たち
の驚く表情を見て異変に気付いた父親が、
立ち上がってドアの方に振り向いてみると、
そこには見知らぬ男が二人、剣を構えて立って
いたのである。
「なっ何だ、お前たちは。。。」
驚く父親に、
「騒ぐな。」
『
異国のスパイだが、最低限、侵入した国の
言葉は話せるよう訓練されている。
母親は、娘たちを急いで
そのまま
後ろには大きな窓がある。
母親は、とっさの判断で娘たちを窓から
逃がそうとしたのである。
「動くな。」
その母親たちを見て、すかさず『巨人』が
そう怒鳴りつけた。
剣を持っている二人を前に、あまりの恐怖
で母親もそれ以上動くことができなくなって
いた。
『
したその時。
『巨人』が、
「ちょっと待て。」
そう言って『小人』を制止した。
「何だ。 なぜ止める?
『隊長』の命令だぞ。」
「気に入らないんだよ。」
「なに?」
「こいつらのことだよ。」
「私情を
早く任務を遂行しろ。」
『小人』が『巨人』を
言うことを聞こうとしない。
「オレはこういう
一番許せないんだ。
こんなでかい屋敷にのうのうと暮らし、
何不自由なく生きている。
ガキにそんな高価な服を着せて、
金持ちを気取って。
何がクリスマスだ。
何が祝いだ。
オレの妹は。。。
オレの妹は医者に診てももらえず
死んだんだ。
その
もう一人の妹はどこかに売られてしまった。
もうどこにいるのか、
生きているのかもわからない。
そしてこのオレはこのザマさ。
売られた妹と同じ。
貧乏な親に
売られたんだ。
それも敵の国にな。
オレたち
この二人が何を言い合っているのか、
その家族にはわからなかった。
彼らは他国から来たスパイ。
「
だから助けてくれ。」
その時父親が大声で叫んだ。
その父親の叫び声を聞いて、周囲の見張り
をしていた『隊長』が、リビングの方に
向かって近づいて来た。
この『隊長』は、元々この国で生まれ育っ
たこの国の人間。
(何だ? 今の叫び声は。。。
あの二人、なぜ早く始末しない?
何を手こずってるんだ。)
父親の発した言葉を耳にして
不審に思い、様子を見に来たのだ。
「しまった。。。
『隊長』がこっちに来る。
早く
そう
「うるさいっ。 任務が何だ。
オレは。。。オレは。。。
チキショー。」
『巨人』は怒りに任せて手に持っていた剣
を一気に父親に向かって振り下ろした。
真正面から切り付けられた父親は、その場
にばったりと倒れてしまった。
「ギャーッ。 誰か、誰か助けてー。」
母親の泣き叫ぶ声。
「『巨人』、どうして
「いちいちうるさいっ。
どうせ殺すんだ。
同じことだ。」
「誰か。。。誰か。。。」
恐怖でおののく母親の元へ駆け寄り、
『小人』はその剣で母親を刺した。
心臓を一突きだった。
残りは二人の娘。
大声で泣きながら背中を向けて窓から
逃げようとする娘たちのドレスを物凄い力で
引っ張り、窓から引きずり下ろすと、
『巨人』が金のドレスの娘の心臓を刺した。
「グサッ」
鈍い音がした。
「お姉さまー。」
もう一人の銀のドレスの娘が、もはや倒れ
て動かない金のドレスの娘を見て泣きながら
叫んだ。
金のドレスの娘は姉のようだった。
目を見張るような美しい金色のレースを
あしらった金のドレスは、見る見るうちに
真っ赤な血に染まっていった。
それは、まるで血の海に沈んでいく
金貨の山のようにも見えた。
金持ちの象徴のような金貨の色。
金色の命は、無惨にも赤き沼に
飲み込まれていった。
ドレスの娘を足で蹴りながら、
「フンッ。 こんな服。
お前になんかもったいない。
貧乏人は一生かかっても
こんな服なんか着られないんだ。
散々いい思いしてきやがって。
もういい加減
金持ちさんよっ。
ざまあみろ。
いい気味だ。」
『巨人』は、もはや動かない金のドレスの
娘に
あまりの恐ろしさに震えが止まらず、
死んでしまった姉のそばに座り込んでしまっ
た銀のドレスの娘。
その時、かろうじて息のあった父親が
最後の力を振り絞り、二人に
「どうか。。。
どうか、その
その
そう言いながら息絶えた。
「お父さま。。。お父さま。。。
どうして。。。
どうしてこんなひどいことをするの?
私たちがいったいあなたたちに
何をしたと言うの?」
それは、銀のドレスの娘の
あった。
そしてその娘も命尽きた。
資産家一家の
のである。
この
『隊長』がやって来たのは、その直後だっ
たのである。
「いったいどうしたんだ?
何があった?」
「いえ、何もありません。
任務は遂行いたしました。」
「私情は
一切言葉も交わすなとも言った。
何を話していたんだ?」
「いえ、何も。
この父親が何か言っていたようですが
我々にはわかりませんでした。」
タッタッタッタッ。
その時、騒ぎを聞きつけて、一人の男性が
急いでリビングに駆けつけてきた。
先ほど父親が、二人のスパイを息子と
勘違いして声をかけた、まさにその息子
『イヴァン』だった。
終ったと思っていた任務は、実はまだ終わ
ってはいなかった。
たった今、目の前にもう一人、殺すべき
家族が姿を現わしたのである。
リビングのドアの向こうで、『イヴァン』
を待っていたのは、愛しい家族ではなく
三人のスパイ。
ドアの近くに立っていたのは。。。
そのスパイのリーダー。
『隊長』と呼ばれる男。
そしてその後ろには、二人の部下が剣を
持って立っている。
「あっ。。。」
『イヴァン』はすぐ目の前に立っている
『隊長』を見ると、それが誰なのか
ひと目ですぐにわかったのである。
弟だった。
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