叔母の遺言(七)

文字数 1,088文字

 この宝石箱を見た時、『マニュエル』の顔

が浮かんできました。


 こんな素敵な宝石箱。


 『マニュエル』の暖かい心がいっぱい詰ま

った宝石箱。


 まさか、この手にする時が来るとは夢にも

思っていませんでした。


 私は、『マニュエル』、『アレン』、

『アレン』のご子孫、そして何より《神》に

心から感謝しました。


 こんな奇跡にめぐり会えるなんて。。。





 生まれたばかりの赤ちゃんだった『満』君

が次第に成長していく姿を、私は、毎日 微笑(ほほえ)

ましく見ていました。


 『アレン』は時々、目をつむりながら顔を

少し上へ向けて笑う(くせ)があったのですが。


 ある日、『満』君とお話をしていた時、

『アレン』とまったく同じ仕草(しぐさ)をした時に

は、びっくりしました。


 まるで『アレン』を見ているようでした。


 『アレン』はニンジンが大嫌いだったので

すが、離乳(りにゅう)食で、義理の姉がニンジンのすり

おろしを『満』君に食べさせようとして口元

にスプーンを持っていっても、いっこうに口を

開けようとしない姿も『アレン』にそっくり

でした。


 このまま、できればあなたの成長をずっと

見護(みまも)っていたい。


 そう思いながらも、私は。。。


 日々、死に向かって生き急ぐ自分と、常に

葛藤(かっとう)していました。


 時々、『ニーナ』として生きていた時の

自分を思い出し、弱すぎた自分を、今さらな

がら反省する日々も送っていました。


 両親がいなかったとはいえ、私には叔父

夫妻がいました。


 今から思うと、叔父夫妻は、私のことを

本当に我が子のように育ててくれたのだと

いうことが痛いほどよく分かったのです。


 叔父夫妻に甘えられなかった。


 わがままを言えなかった。


 まるで自分を悲劇のヒロインのように思い

込み、素直になれなかった自分。


 甘えたければ、甘えればよかったのに。


 わがままを言いたければ、言えばよかった

のに。


 素直になれなかったのは、みんな周囲の

せい。。。亡くなった両親のせい。。。

 そうやって、すべてを誰かのせいにしていた

自分を()じました。


 結婚もそう。


 私がはっきりと結婚したくないと言えば、

叔父夫妻も話は進めず断ってくれたはず。


 私がはっきり嫌だと言えば、それで済んだ

のに。。。


 すべては自分自身の優柔不断さが招いてし

まったこと。


 自分の想いを正直に相手に伝える勇気がな

かった私。

 
 周囲に助けてもらうばかりで弱すぎた私。


 こんな私が、例え『アレン』と結婚できた

としても、『アレン』に負担ばかりかけてし

まっていたでしょう。


 今度また生まれ変わる時。


 今度こそ『アレン』と結ばれる時。


 その時はもっと強くなって、私が

『アレン』を(まも)り抜こう。


 『満』君を見つめながら、私はそう決心し

ました。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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