『マニュエル』を追う理由

文字数 957文字

 「ところで、隣町の資産家一家殺人事件の

犯人だが。。。


 一人だけまだ捕まっていないらしい。


 兵士たちが、しゃかりきになって探している

そうだ。


 この村にも探しに来ているらしい。


 村人や市民の姿をしているから、一見兵士

には見えないがな。」


 「町では過去にも資産家が殺されてしまう

事件がありましたよね。


 犯人はまだ捕まっていないはずだし。


 どうして半年前の殺人事件の犯人を、そんな

に捜しているんですか?」


 「それなんだ。


 どうもその犯人は、この国の市民を(よそお)って

いたらしいんだが。。。


 そうじゃないらしいんだ。


 いや、どう言えばいいのか。


 元々はこの国の人間だったんだが、

敵国に売られてスパイとして養成され、

敵国の命令でこの国を混乱させるために

送り込まれたらしい。


 自分の国を裏切って敵国に寝返るなど

許されることじゃない。


 (とら)えたらその犯人から敵国のあらゆる情報

を聞き出し、最後は処刑することになってい

るそうだ。


 まったく何て卑劣(ひれつ)なことをするんだ。


 目的を達成するためには手段を選ばない。


 だが。。。


 もっともそのスパイも考えてみれば哀れ

だけどな。


 貧しさから親に売られてしまったんだろう

から。」


 黙って聞いていた『アレン』だったが、
『レフスキ』の最後の言葉を耳にした時
次第に怒りが込み上げてきた。


 そして、

 「『レフスキ』さん。

 もしあなたが敵国に売られてしまったら

どうしますか?」


 そう尋ねた。


 「えっ? 何だい、『アレン』。


 急にそんなことを言いだして。


 考えたこともないね。


 我々庶民にはどうすることも出来ない。


 世の中を(うら)むしかない。」





 『アレン』はそれ以上語らなかった。
 

 いや、話を続ける気になれなかったのだ。


 誰もがみな、それを他人事(ひとごと)のようにしか

考えていない。


 一体、もし自分が当事者だったらどう

するのだ。。。


 そんな風に自分のことのように(とら)えようと
する人々などほとんどいないことが
『アレン』には分かっていたからだ。


 ここで言い合いをしても、何の解決にも
ならない。。。


 『アレン』は(むな)しさを感じた。




 「あっ、思い出した。


 話によれば、その犯人は額に傷がある

そうだ。


 もしその犯人らしき男を見かけたら

憲兵隊に連絡するといい。


 褒美(ほうび)として金貨が与えられる。


 一年以上働かず、楽して暮らせるほどの金貨

だそうだ。」
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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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