『ケツァール』の壮絶な過去 (一)
文字数 620文字
現在のバルカン半島の海岸沿いのある国で
『アレン』と『ケツァール』は
『アレン』は、当時人間だった
『ケツァール』の家とはさほど遠くないとこ
ろに住んでいた。
小さい頃はよく一緒に遊んだ仲だった。
『ケツァール』が生まれた家は、村の中で
も非常に貧しく、食べるものと言ったら
数頭の牛の乳から作るチーズと畑でできる
野菜ぐらい。
地主の畑で収穫の手伝いをして受け取った
一握りの報酬と、山で集めた
キノコを町へ売りに行って生計を立ててい
たのである。
父は病弱でほとんど働けず、一家の
は母と兄。
貧しい家だったが、優しい両親と兄、二人
の妹に囲まれ、『ケツァール』はとても幸せ
だった。
将来は医者になりたかった。
病弱な父親のような人たちを救いたいと強
く思っていたのである。
兄はそんな『ケツァール』の夢を応援して
くれた。
そして、自分が働くから町の学校に行って
勉強し、立派な医者になるようにと言ってく
れたのだった。
「お前の夢は必ず叶えてみせる。
お前は頭がいいし、勉強が好きだ。
それに運動も得意だ。」
それが兄の口癖だった。
当時、その国は他国との戦争のさなかにあ
り、二十代、三十代の青年たちはみな
され、戦死する者や深い傷を負って帰国する
者が相次いでいた。
貴重な稼ぎ手の青年たちを多く失い、
国は
残ったのは老人や初老の男たち、女たち、
そして子供たちだけだった。
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