父鳥の叫び
文字数 776文字
父鳥は、とうとうその場にうずくまって
しまった。
今にも失神してしまいそうなほどのショック
を受け、そして、ついに大声で泣き出したの
である。
そう。
『サタン』の言った通り、父鳥はすべてを
知っていたのだった。
あの時、仲介人として訪れた人物。
『マニュエル』を資産家の養子に迎えたいと
いう話を持ってきたあの人物が、実は敵国の
スパイであったということを。
母も兄も、『マニュエル』に
生きてきた。
「私たちはいったい何ということをして
しまったのだろう。
自分たちが生きるために家族を犠牲にして
しまった。
それで本当に幸せだったのだろうか。」
父鳥は、死の瞬間、自分の犯してしまった
罪の重さにやっと気づいた。
そして、それ以来ずっと後悔の思いに
れてきたのである。
まるで何かに対して叫ぶかのような父鳥の
その鳴き声は、耐え難い
あった。
自らが犯してしまった恐ろしい罪。
父鳥のその声は、それを犯してしまった
自らに対する自らの怒りの叫びだった。
この日が来るまで、父鳥は五百年間その罪
を背負い、ひたすら
きた。
再び出逢えるであろう
悲惨な運命を歩ませてしまった
この手で幸せにしてあげることができな
かった愛しき
『マニュエル』に心から
ずっとずっと苦しみ続けてきたのであった。
≪浄魂鳥≫となった『マニュエル』同様、
『マニュエル』の家族もまた、自らを悔い、
その壮絶な人生を清算するために≪浄魂鳥≫
となり、『マニュエル』に再び逢える日を
願いながら、五百年もの間、
である。
父鳥の目から止めどなく流れ続ける
後悔の涙。
羽のない父鳥に代わって、口ばしのない
母鳥が、隣りで父鳥に寄り添うようにその羽
で父鳥の涙をぬぐっていた。
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