『マリア』からの贈り物

文字数 4,371文字

 「『ゴッド』様。。。


 実は、私も今回の件で、導光さまにお礼を

したいと思っているのですが、よろしいで

しょうか?」


 ここで『マリア』が、そう『ゴッド』に
懇願した。


 (みな)が立っているこの舞台。


 そして、そこで繰り広げられたすべての
出来事のきっかけを創ったのは『マリア』。


 『マリア』の、『アレン』と『アレン』を
取り巻く人々の幸せを願う純粋で強き想い
が、無事にその舞台の幕を、ようやく降ろす
時が近づいていた。


 「もちろんです。」


 「ありがとうございます。


 『ゴッド』さま。。。」


 そう『ゴッド』にお礼の言葉を述べると、
『マリア』は、導光を真っすぐに見つめた。


 そして、両手の平を合わせて祈るように
握り合わせると、(から)め合った左右の指同士を
ゆっくりと(ほど)くように伸ばし、両手首をつけ
ながら花の形を描くようにくるっと回した。



 すると。。。



 『マリア』の両手の中から、薔薇の花冠(かかん)
形をした深紅のガラスの小瓶(こびん)が出現したので
ある。


 まるで深紅の薔薇の花そのものである。


 「うわ~。。。


 キレイな薔薇の小瓶(こびん)。。。」


 それに感激した『輝羽』が、思わずそう
叫んだ。


 「この瓶の中には、天界に咲く

《花の大神(おおかみ)》であられる『天花(てんか)』さまより

生まれた《花の神々》の生命から抽出した

香水が入っています。


 『天花(てんか)』さまは、私たち《花の神々》に

とっては、生みの親同然。


 私たち《花の神々》は、その『天花』さま

から生まれるのです。


 私は、《花の神々》一体、一体に事情を

話し、その花びらと葉を一枚ずつ分けていた

だきました。


 《花の神々》にとって、花びらも葉も

とても大切な身体(からだ)の一部。


 その大切な身をあえて(けず)り、(ささ)げてくだ

さったのは、『アレン』や『マニュエル』、

『ニーナ』、そして『マニュエル』の家族

に、今度こそ幸せになってほしいという

私の願いに賛同してくださったからに

他なりません。


 まさにこれは、花の生命そのもの。


 命の水とも言えましょう。




 この香水は、一年に一度だけ、願いを叶えて

くれる聖水。


 使わなければ、叶う願いは、年ごとに増えて

いきます。


 三年使わなければ、一度に三つの願いが

叶います。


 どうしても叶えたい願いがある時。


 身近にある花に向かって、この香水を吹き

かけてください。


 そして、その花に向かって願いを唱えれば、

必ず願いが叶います。


 地上に存在するすべての花々の力が、

花から花へと(つな)がり、そして実を結ぶのです。


 その時、誕生するのが【幸結連花(こうゆいれんか)】という

力。


 そして。。。


 その力を発揮させるこの香水の名こそ。」


 そこで『マリア』は、なぜかひと呼吸置く
と、満面の笑みを浮かべた。



 ニコッ。。。




 そして、軽く咳払(せきばら)いをしたかと思うと、

 「オッホンッ。。。


 その名も【パッフュ~ム・マリア】で

ございます!」






 「プッ。。。」



 さも得意気(とくいげ)にそう言う『マリア』を視た
導光は、あまりの可笑(おか)しさに、思わず吹き
出し笑いをしてしまったのである。



 「おっ。。。お父さん。。。


 そこ、笑うところ。。。?」


 『輝羽』に注意され、(しまった。。。)
と思った導光は、

 「あっ。。。『マリア』。。。


 すまない。。。」

 『マリア』にそう謝ったのだが。。。




 時すでに遅し。。。



 笑顔にあふれていた『マリア』の(まゆ)
曇り、その表情は、見る見る不機嫌になって
いった。


 (みな)の前で、自らが名付けた香水の名を
上得意で公表したにもかかわらず、それを
導光にバカにされたと思ったようである。


 「『マリア』、すまない。。。


 笑うつもりはなかったんだ。。。


 すっ。。。

 素晴らしい名前だと思うよ。。。」



 「。。。。。べっ。。。別に。。。。。


 気にしておりませんので。。。」


 そう言いながらも、導光をじっとにらみ
つける『マリア』。(怖)


 そこへすかさず『ローマ』が『マリア』を
かばうように助け舟を出した。


 「『マリア』、スゴイよ。


 よくやったね! 


 大へんだっただろう。


 これだけの贈り物を、君はたった一人で

創り上げたんだから。。。


 君の気高さと美しさ、(りん)とした()で立ちが

すべてこの香水に宿っているのが、この私には

よくわかる。


 よくわかるよ。」


 さすがは女心を知り抜いた
『白いバラの花の男神(おがみ)』。


 言うことが抜け目ない。




 「『ローマ』。。。」


 いつもなら、『ローマ』の言うこと、
やること、成すことすべてに嫌悪感を持ち、
何かと反抗する『マリア』であるが、
その『マリア』が真顔になったのである。




 そして。。。


 「『ローマ』。。。


 ありがとう。。。うれしいわ。。。」


 『マリア』は、初めて『ローマ』に対して
そう素直に答えたのであった。





 「で。。。ですので。。。


 そういうことでございます。


 ほんの少し前まで、これは導光さまに

差し上げようと思っておりましたが。。。





 ()めました。


 『輝羽』さまに差し上げることにいたし

ます。」



 「そっ。。。そんな。。。」


 (どっ。。。どうして、『輝羽』なの。。。


 トホホ。。。)


 自らの失態が招いた結果なのか。。。


 導光は、心の中で反省していた。




 「えっ? 私に。。。ですか?」


 「はい。」




 ニコッ。。。




 満面の笑みの連鎖。


 『マリア』の笑みが、今度は『輝羽』に
移ったようだ。


 導光といえどもまったく欲がないわけでは
ない。


 がっかりする導光に、『マリア』は、

「導光さま。私は《神》です。


 私的感情で心変わりなどいたしません。


 どうか誤解なさらないでくださいね。


 この贈り物は、ぜひとも『輝羽』さまに

差し上げるべきであると、この聖水

【パッフュ~ム・マリア】が先ほどから

私に訴えているのでございます。


 近い将来、『輝羽』さまにとって、この

【パッフュ~ム・マリア】を使う時がきっと

やって来るはず。


 そしてそれは、美しいものが大好きなこの

私が、“『マリア』のお気に入りリスト”に載せ

た≪桜の花≫が咲くころ。。。え~と。。。

春ですね。


 『輝羽』さまは、桜と(ゆかり)ありし方々と

出会います。


 何やら私には、『輝羽』さまがその方々の

ために、この【パッフュ~ム・マリア】を

お使いになるように思われてならないので

ございます。」


 「桜と(ゆかり)ある人。。。?  


 誰だろう。。。?


 私の知っている人かな?」


 「お知りになりたいですか?」


 「ええ。『マリア』、知っているなら

教えて。」


 「それでは。。。」


 『マリア』はそう言うと右手を上げ、人差し
指と親指をこすり合わせながら軽くパンッと
音を鳴らした。


 それは、何かの合図のようにも思えるの
だが。。。



 すると。。。



 ポ~~~ンンンンンンンッ。。。


 まるで太鼓を(たた)いたような音と共に
『マリア』のすぐ隣に現れたのは。。。




 一羽のウサギ。




 ウサギは、恥ずかしそうに顔を赤らめ、
ソワソワしたように『マリア』の後ろに
隠れた。



 「皆さまにごあいさつをなさい。」


 ウサギは、『マリア』の後ろから前に
チョコチョコと出てくるとおじぎをした。


 「『マリア』。


 またウサギを飼ったのかい? 


 前に飼っていたウサギはどうしたんだ?」


 そう不思議がる『ローマ』に、

 「私のウサギは、このウサギだけよ。」

 と顔色ひとつ変えずに答える『マリア』。


 「えっ? だけど。。。


 色が違うじゃないか。


 前に飼ってたウサギは真っ白で赤い目を

していた。


 名前も『ホワイト』だっただろ?」


 「ええ。そうよ。」


 「『マリア』。


 私をからかっているのかい? 


 どうみてもこのウサギは白じゃない。」


 「私が、ローズピンクに染めたのよ。」


 「そっ。。。染めた。。。?」


 「そうよ。 


 この子ったら、散歩が大好きで、いつも

一緒に天界の花園に散歩に行くんだけど。


 あなたのお屋敷の前の白いバラの花園が

とってもお気に入りで。。。


 そこでずっと遊んでいるのよ。


 バラもこの子も白いからまったく見分けが

つかなくて、探すのが大へんなの。


 だからローズピンクに染めたわけ。


 おかげでどこにいるかすぐにわかるように

なったわ。」


 「そっ。。。そういうことか。。。


 ハハハ。。。」

 苦笑いする『ローマ』。


 「あれっ? なにか変だ。。。


 何だ。 もしかして目も。。。


 目もブルーに染めたのか?」


 「そうよ。


 よくわかったわね。『ローマ』。


 ローズピンクの身体(からだ)と赤い目では、

なんかしっくりこないのよ。


 だから目はブルーにしたわ。


 どう? 可愛いでしょ?


 名前も『ホワイト』改め、

『ピンク・ピンク』にしたの。 


 ねっ、『ピンク・ピンク』。。。」

 そう言いながら、『マリア』は、ウサギの
頭を優しく()でた。


 「『ローズ・ピンク』じゃなくて

いいの。。。?」

 ここで、再び『ローマ』のしぶとい

ツッコミが。。。


 「いいの。


 『ピンク・ピンク』の方が、ずっと可愛ら

しいし。。。」


 





 「プッ。。。」

 これまた再び、導光の、あの吹き出し
笑いが。




 ジロッ。。。


 『マリア』の厳しい視線。


 「あっ、いや、いや。。。


 とっても可愛いウサギだな。。。

と思って。。。」





 「『マリア』さま。


 お手紙をお持ちしました。」


 すると『ピンク・ピンク』は、身に(まと)って
いる紺色のベストの胸ポケットから、
『ピンク・ピンク』の色とよく似たピンク色
の封筒を『マリア』に差し出した。


 「ありがとう、『ピンク・ピンク』。


 もう戻ってもいいわよ。」


 「はい。『マリア』さま。


 みなさま、ごきげんよう。。。」

 そう挨拶すると『ピンク・ピンク』は、


 ポ~~~ンンンンンンンッ。。。


 登場する時とまったく同じ音を立てて
消えていった。




 「実は、先日、さるお方からこの手紙を

受け取ったのです。


 ずっと想い続けてきた方を、今度こそ

ご自身の手で幸せにしたい。。。


 力を貸してほしい。。。とのことでした。



 このお方の願いを叶えるためには、

何としても『輝羽』さまのお力が必要

なのでございます。


 本来でしたら手紙の内容はけっして

公開いたしません。


 ですが、『輝羽』さまなくしては解決でき

ないことですので、特別にこの場で、この私

が読ませていただきます。


 よろしいですか? 『輝羽』さま。


 心して聞いてくださいね。」


 そう言うと『マリア』は、桜の花冠(かかん)で封印
された桜色の封筒に入った便箋をおもむろに
取り出した。


 真っ白の便箋には、桜の花の押し花が散り
ばめられていた。


 「なっ。。。なんだか私。。。


 すごく不安になってきちゃった。


 大丈夫かな?」


 「なに言ってるんだよ。『輝羽』ちゃん。


 『輝羽』ちゃんじゃなきゃ、できないこと

なんでしょ? 


 やるしかないよ。


 そうですよね。


 『輝羽』ちゃんのお父さん。。。」

『満』が、不安がる『輝羽』を勇気づけた。


  導光もまた、

 「『満』君の言う通りだ。


 『輝羽』、心配するな。


 お前ならできる。」

 そう言って『輝羽』を励ました。


 「わっ。。。わかった。。。


 何とかやってみる。。。」




「それでは、読ませていただきますね。」

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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