『アレン』の想い

文字数 3,920文字

 『ゴッド』は、命を落とした『アレン』
の、その時の想いを語ってくれた。


 「五百年前、この≪日本≫という国に

転生を希望したのは『アレン』自身でした。


 天に召された後、本来なら『アレン』は

すぐに転生できたのですが。


 結ばれるはずであった女性、『ニーナ』が

自らの命を絶ってしまったため、『ニーナ』

は罰を受け、五百年、待たなければならな

かったのです。


 すぐに転生をして、他の女性と結ばれたと

しても、『アレン』は幸せな人生を送れたで

しょう。


 でも『アレン』は、『ニーナ』と結ばれる

ことを強く希望しました。


 そして、転生した時は、この≪日本≫と

いう国で再び出逢い、結ばれたいと願った

のです。


 人伝(ひとづ)てに聞いた神秘の国。


 それは東洋の島国。


 厳しい冬の季節が終わると、透き通る

ような白に近い淡き紅色(べにいろ)可憐(かれん)な花々で

(いろど)られる国。


 五百年後、もしその国が≪平和≫である

ならば。。。


 自分が生きた国が、戦争で多くの人々を

不幸にしてきたから。。。


 戦争の恐ろしさを知っている国。


 ≪平和≫の(とうと)さを知っている国。


 ≪平和≫を訴え、他の国々に歩み寄ろう

とする国。


 五百年後、もしその≪日本≫という国が

そんな国になっていたなら。。。


 薔薇の花で(いろど)られる国で生まれ、

生きた自分は、今度はその淡き紅色(べにいろ)

可憐(かれん)な花々の咲く国で≪平和≫と共に

生きていきたい。。。


『アレン』がそう願ったからです。


 『マニュエル』が、≪トキ≫という鳥に

()かれたように、きっと『アレン』も

また、日本の人々の安らぎの花に心惹かれた

のでしょう。



 それだけではありません。


 『マニュエル』、そなたが『アレン』と

再会したいと強く願っていたのと同じくらい

強く、『アレン』自身も、そなたと再会

したいとずっと願っていたのです。」



 「えっ? 『アレン』も。。。


 『アレン』も私と再会したいと。。。?」


 『マニュエル』は、驚いたように
『ゴッド』に尋ねた。


 「ええ。そうです。


 そして、『アレン』は。。。


 今度、再び逢うその時。


 その時こそ、家族としてそなたを幸せに

したい。。。


 そう心の中で強く想っていたのです。


 悲惨な運命に翻弄(ほんろう)されながらも、自分の

信念を貫き通し、多くの人々を救ってきた

そなたを、『アレン』は、心から尊敬して

いました。


 同時に、家族の犠牲となり、不幸な人生を

歩まざるを得なかったそなたを、いつの日

か、自分が絶対に幸せにしてあげたい。。。


 そう願っていたのですよ。


 『満』にとっては、かつて『アレン』で

あったその時の想いは、もう記憶にはない

かもしれません。


 ですが、受け継がれた魂が、『アレン』で

あった時のその想いを秘めた魂が、『満』の

中に今でも存在しているのです。


 だからこそ、『満』はそなたを説得する

ことができた。


 『満』の言葉は、その魂の叫びそのもの

でした。




 今生(こんじょう)で願い叶わぬ時。


 人間は、来世に願いを託すものです。


 願い叶えるために精一杯生きた末に果たせ

なかった想いがあるならば、その想いを来世

(つな)ぐ。


 そなたも『アレン』も、来世に願いを託し

たのでしょう。


 相手を大切に想う人間の魂ほど、私たち

《神々》から視て美しいものはありません。


 二人とも過去に(こだわ)るのではなく、純粋に

相手を想っていたからこそ、来世へ自らの

願いを託した。


 素晴らしいですね。」


 心温まる『ゴッド』のその言葉に、

 「そうだったのですね。


 『ゴッド』様。。。


 『アレン』が。。。


 『アレン』が、そんなに私のことを。。。


 嬉しい。。。


 そんなに私のことを想ってくれていた

なんて。。。」


 『マニュエル』が、そう(つぶや)いた時。


 なぜか『満』の目から、涙があふれて
きた。


 どんなに涙をこらえようとしても、どうして
もこらえられない。


 あふれる涙を()めることができない
『満』。




 『アレン』として生きていた『満』。


 その時の『マニュエル』に対する想いは、
もう記憶にない『満』であったが。。。


 『満』の魂が。。。


『アレン』として生きた時代の魂が、
『マニュエル』をずっと忘れずに大切に
ここまでその想いを心の中で(つむ)ぎ続けて
来てくれたのである。


 『満』の涙は、『満』の魂が、その
『マニュエル』に対する想いを『満』に
呼び起こしてくれた(あかし)であった。

 「『マニュエル』。。。


 ありがとう。。。


 僕のこと。。。


 ずっと忘れずにいてくれて。。。」

 涙を(ぬぐ)いながら、『満』が、そう
『マニュエル』に告げると、


 「『アレン』。。。」


 そうひと言『アレン』の名を(つぶや)いた
『マニュエル』も、もう言葉がなかった。




 時代を超え、やっと念願の再会を果たした
二人。


『満』の隣りにいた『輝羽』は、その二人の
姿にただただ(なみだ)していた。


 そんな二人を見つめながら、導光もまた、
涙をこらえることができなかった。


 互いをけっして忘れず、ひたすら再会を
願ってきた二人の想いは、導光の
【龍の眼光】には、【美しき想いの糸】
のように映った。


 (何という、優しい《想いの糸》

なんだ。。。


 互いを大切に想う、その《愛》で満ちて

いる。。。


 まったく(たゆ)まず、かと言って、力づくで

引き合いもせず。。。 


 ひたすら相手を想いながら、ゆっくりと、

ゆっくりと。。。


 そして、優しく手繰(たぐ)り寄せていく。。。


 待てよ。。。 


 ひょっとして、これは。。。)



 「とうとう現れましたね。


 【ソウル・チェーン(魂の鎖)】が。」




 そう。


 導光の【龍の眼光】に映った
【美しき想いの糸】。


 『ゴッド』にそう言われる直前に、
それが一体何であるのか、導光にも
わかったのである。


 確かに『ゴッド』が言ったように、
それは【ソウル・チェーン(魂の鎖)】
であった。

 


 互いに心から大切に想う相手がいる。


 来世を信じる魂が、ただひたすら強く相手
の幸せを願い続けながら、その相手と再会を
果たした時。


 そして、自分のことをいかに大切に想い
続けて来てくれたのか。


 その相手の優しさを知った時。


 その時、初めて生まれるのが、この
【ソウル・チェーン(魂の鎖)】。


 かつての『アレン』、『満』のことを、
ずっと想い続けて来た『マニュエル』。


 そして、『マニュエル』のことを、
ずっと想い続けて来たかつての『アレン』、
『満』。




 二人は、光に包まれた。



 やがて、その光は(はじ)け、無数の小さな(たま)
なり、色づき始めた。


 何とも表現ができないほどの不思議な、
不思議な色合い。。。


 その不思議な色の珠たちは、少しずつ、
少しずつ(よみがえ)るようにその色を濃くしていく。


 『マニュエル』が(まと)う珠たちは純白。


 『満』が(まと)う珠たちは、空色とトキ色。


 ほどなく、その三色の珠たちは、一カ所に
集まり始めた。


 純白の珠ひとつ、空色の珠ひとつ、
そして、トキ色の珠ひとつが一組になり、
寄り添いながらひとつの珠になっていく。


 ひとつの珠になった時。


 色が変わった。


 薄い紫に変化したのだ。


 そして、次々に一組、また一組、もう一組
と、三色の珠たちは、寄り添いながら淡い、
淡い紅藤色(べにふじいろ)の珠に姿を変えていった。


 次第に、その淡紅藤(うすべにふじ)の珠たちは、長い、
長い一本の鎖となっていったのである。


 「うわ~。 なんてキレイな鎖。


 まるで薄紫の真珠の長~いネックレス

みたい。。。」




 そう。


 涙ぐんでいた『輝羽』が思わず感激して声を
上げたように、それは、まるで薄紫色の真珠
が連なった、長い、長い鎖であった。


 『マニュエル』とかつての『アレン』、
『満』は、淡紅藤(うすべにふじ)の【ソウル・チェーン】 
を見事に創り上げたのである。


 二人の魂から生まれた
【ソウル・チェーン】。


 長い、長いその《鎖》は、空中で互いに
いくつもの《円》を描いていった。


 【円連(えんれん)】。


 人と人との《縁》。


 その《縁》は、《円》とも言い換えること
ができる。


 《縁》なるものは、途轍(とてつ)もない時間を
かけ、《円》を描きながら宇宙を彷徨(さまよ)う。


 そして、 (まる)い地球を一周し、めぐり
めぐっていつの日か再び、その《縁》なる
ものは、《縁》ありしものの元に必ず帰って
来る。


 《縁》とは、そういうもの。


 彼らの【ソウル・チェーン】は、その
《縁》を【円連(えんれん)】で示した。


 必ずまた、めぐり逢い、幸せになると
【ソウル・チェーン】がそう宣言したので
ある。


 二人は、しっかりと、(たゆ)まず、しかし強く
引き合いもせず、その【ソウル・チェーン】
で魂と魂が結ばれていた。


 「私は、先ほど、互いが互いを大切に想い

合う人間の魂ほど美しいものはないと申し上

げました。


 なんと美しい【ソウル・チェーン】。


 今に至るまで、ただの一度もこんなに

美しい【ソウル・チェーン】を、私は視た

ことがありません。


 『マニュエル』、そして、かつての

『アレン』、『満』。


 あなた方の魂は、今、ここに

永遠絆鎖(とわのきずなのくさり)】を(つむ)ぎ出しました。


 これから先、何度転生を繰り返そうと、

その【永遠絆鎖(とわのきずなのくさり)】は、けっして揺らぎ

ません。


 けっして切れません。


 【永遠絆鎖(とわのきずなのくさり)】が、必ずあなた方二人

を、まためぐり逢わせ、共に幸せな人生へと

(いざな)ってくれます。


 それは、あなた方が、想いやりのある方々

だから。


 人を信じ、人を理解し、人を助ける。。。


 その信念を強く、強くお持ちだから。


 私も感無量です。


 こんなに素晴らしい場に立ち会うことが

できて。。。」


 そう語る『ゴッド』の声は、導光には、
感激の涙に()れているように思えた。


(『ゴッド』が言われた通りだ。


 なんて。。。


 なんて素晴らしい絆なんだろう。。。


 これほどの【ソウル・チェーン】を、

私も、未だかつて一度も視たことがない。


 《神》でさえも感動するほどの美しい絆。


 人を想う心の(とうと)さ。


 私も人間として、それを大切にしていかな

ければならない。)


 それは、導光にとっての新たな
《気づき》。


 導光は、改めて自らの心に、そう強く
誓うのであった。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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