依頼主は『赤いバラの花の女神』

文字数 783文字

 あれは一ヶ月ほど前のことだった。


 導光の元に、ある依頼主がやって来た。


 何とも言えない(かぐわ)しい香りで朝早く目が覚
めた導光は、寝室から出ると、まるでその香
りに引き寄せられるかのように、中庭へ続く
縁側の方へ向かって行った。


 (いったい何の香りだ? 


 これは。。。


 何か花の香りのような気がするが。)


 そして引き戸を引き、縁側(えんがわ)に出て、
中庭を見てみると。。。



 なんと目の前には、あるはずのない薔薇(ばら)
花々が庭一面に広がり、そこはまるで薔薇(ばら)
楽園と見まがうほどだった。


 ローズピンクの薔薇の花々の中に囲まれる
ように黄色やオレンジ、白や紫、そして青い
薔薇が(つや)やかに咲いている。


 色とりどりの薔薇の花々。


 「なんて美しい花園だ。


 こんな花園は見たことがない。」


 導光がその薔薇の花園に見とれていると、
なんとも優しいそよ風が吹き、その花園の
中心から、薔薇の花々が少しずつ左右へと
揺れながら移動し、導光の目の前に一本の
真っ白な道を作っていったのである。


 薔薇の花々は、まるで敬意を払うかのよう
(こうべ)()れている。


 すると、その道の向こうに人のような姿が
現れ、ゆっくりと導光の方に向かって歩いて
来た。


 女性の様だった。


 頭上に深紅(しんく)の薔薇の王冠をかぶり、
きらめくような銀色の長い髪はそよ風に揺れ
ている。


 真っ赤なビロードのドレスを身に(まと)い、
深紅(しんく)の薔薇の花の首飾りを掛け、まるで
ギリシャ神話に登場する女神のような彫りの
深い美しい顔立ちをしている。


 その女性は、両手でドレスをさり気なく
持ち上げ、右足を後ろに引きながら左ひざ
を軽く曲げ、導光に一礼した。


 「初めまして。 導光さま。


 私は『赤いバラの花の女神  マリア』

と申します。


 朝早くから申し訳ございません。


 導光さまに、ぜひともお力を貸していただ

きたく、こちらにやって参りました。」



 そう。


その依頼主の名は
『赤いバラの花の女神  マリア』。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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