『ビリー』、そばにいてほしい
文字数 581文字
季節は冬から春に移り変わり、もうすぐ
また薔薇の花が咲く六月がやって来ようとして
いたある日。
「ゴホッ、ゴホッ。」
『マニュエル』は風邪をこじらせ、肺炎に
なりかかっていた。
少なくなってきた食糧を調達するため、
大雨の中、寒気がするのに外へ出て行き、
ずぶ濡れになって帰ってきたのが原因だった。
(いつもなら、このくらいの寒気など何でも
ないはずなのに。。。)
もうすぐ六月。
薔薇の花が咲く時期だ。
『赤いバラの花の女神』に言われた通り、
『マニュエル』は、毎年六月、薔薇の花が
咲くころ、『アレン』が倒れていた薔薇の
花畑の薔薇で二十本の薔薇のブーケを作り、
その場所に供えていた。
(今年は花畑に行けるかな?)
咳が止まらなくなってきた。
熱もあるようで、寒気が収まらなかった。
(たしか、
はずだ。)
そう思い、ベッドから起き上がろうとした
時、急にめまいがして起き上がれなくなってし
まった。
(いったいどうしたんだ。
二、三日寝ていれば、よくなると思ってい
たのに。)
「『ビリー』。 『ビリー』。
どこにいるんだ、『ビリー』。」
何度も咳き込みながら、枯れた声で
『マニュエル』は『ビリー』の名を呼んだ。
何か嫌な予感がして心細くなり、繰り返
し『ビリー』、『ビリー』と叫び続けた。
しかし、『ビリー』の姿はない。
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