『輝羽』を見つめる視線

文字数 1,042文字

 それから間もなく大学は夏休みに入った。


 二人の通う聖宝德学園大学には、付属の
中学と高校がある。


 大学は、毎年夏休みにはオープンキャン
パスと言って、大学を開放し、入学を希望
する高校生が現役の大学生に大学のことや
学生生活について直接尋ねることができる
機会を設けている。


 二人の在籍する大学の国際文化学部でも
入学を希望する高校生たちを招待して、
大講堂でオリエンテーションを開催する
ことになっているのだ。


 今日はそのオリエンテーションの日。


 『満』は、大学側からその司会進行役を
任されていた。


『輝羽』は、当初そのメンバーではなかった
が、どうしても都合が悪くて今日参加できない
メンバーに代わって、急きょ高校生からの
質問に応答する現役大学生として壇上に立つ
ことになってしまった。


 『満』にどうしても参加してほしいと頼ま
れ、断り切れなかったのである。


 『輝羽』は、大講堂近くの広場のベンチに
腰掛け、『満』が来るのを待っていた。


 このベンチで待ち合わせだ。


 約束の時間より早めに着いてしまった
『輝羽』は、夏休み明けに提出しなければ
ならないレポートの原稿を書いていた。





 その時。





 なぜか『輝羽』は、遠くから誰かにジッと
見つめられている気配を感じた。


 だが、辺りを見回しても誰も自分を見てい
る様子はない。


 気のせいかと思い、再び原稿を書き始めた
時、また誰かに見つめられている気がして、
再び辺りを見回した。


 (何か変だな。


 さっきから、誰かにじっと見られている気

がするんだけど。。。)


 今回、『満』には話したが、『満』以外の
友人には、自分に霊能力があるということを
一切話していない。


 信頼できる一部の友人にだけ、それも人
よりは多少その能力がある、とは言って
あるが。


 けっしてそれを誇らしげに語るわけでも
ない。


 持って生まれた能力に恵まれていることに
感謝し、いつの日か、父のようになりたいと
思っている。


 その『輝羽』でさえも気配を感じるだけで
姿がわからない何か。


 通常、良からぬものならば、『輝羽』には
すぐわかるのだが、今この瞬間に感じる気配
には一切[邪悪]な何かを感じない。 


 むしろ自分をずっと見護(みまも)ってくれていたかの
ような。。。



 今までは気づかなかった。



 だが、ここ一ヶ月ほど自分でもどう言って
いいのかわからないくらい、自分が自分で
ないような、理由(わけ)もなく古き昔のことが気に
なりだしたり。 


 自分がどうかしてしまったのかと感じること
が多くなった。


 (いったい何?  誰? 


 私に何の用?)





 そう思った時。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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