叔母の遺言(五)

文字数 1,082文字

 「『ニーナ』よ。


 汝の罪が許されるまで、いよいよ残り

五十年となった。


 汝も、そして汝と結ばれるはずであった

『アレン』という人間も、《神》が見初(みそ)める

ほど高潔(こうけつ)で誠実な者たち。


 それに免じて汝に一つの機会を与えよう。


 それは、再び人間の世に生まれ、愛しき

『アレン』と出逢うというもの。


 ただし、決して結ばれることはない。


 それでも良いというのなら、再びめぐり逢

わせよう。


 本来結ばれる運命となる時は五十年後。


 だが一刻も早く再会したいという汝の強き

想いを果たしたいのであれば、この《神》が

叶えよう。」





 私は迷いました。


 あと五十年。


 あと五十年耐えさえすれば、『アレン』と

本当に結ばれる。



 でも。。。



 私は、一刻も早く『アレン』と再会したい

という気持ちを抑えることができず、すぐに

転生することを選びました。


 《神》はその時、私に大切なことを

告げてくださったのです。


 『アレン』は、私の身近な人間として生ま

れ、めぐり逢う。


 『アレン』の方があとから転生する。


 私は、前世の記憶をすべて持ったまま生ま

れるが、『アレン』には、その前世の記憶は

まったくない。


 そして、私は『アレン』と出逢って五年後に

世を去る。


 そのあと再び転生し、十五年後、必ず

『アレン』と出逢い、その時こそ本当に結ば

れると。


 そしてもう一つ。


 とても大切なことを教えてくださいました。


 転生したら、『ブルガーコフ』という名の

木工職人の元を尋ねるように。


 その木工職人は、今はヨーロッパ南東部

≪ブルガリア≫という国の、ある村に住んで

いる。


 そこは、ローズピンクの薔薇の花畑が

とても美しい村。


 そして、その木工職人こそが『アレン』の

子孫。


 『マニュエル』が私たちのために作ってく

れた宝石箱は、《神》の手により『アレン』

の弟の元に届けられ、《神》の(めい)により、

代々子孫に受け継がれた。


 『アレン』の弟は、子孫に遺言を残した。


 ≪五百年後、異国の女性が、この宝石箱を

受け取りにやって来る。


 その女性は、()が『ブルガーコフ』家の

祖先『アレン』のかつての婚約者。


 残念なことに、理由(わけ)あって結ばれることは

叶わなかったが、この宝石箱は、()が祖先

『アレン』とその女性への贈り物。


 二人に渡すことができなかった贈り主のた

め、この心のこもったこの世にたったひとつ

の贈り物を必ずその女性に渡してほしい。≫


 『アレン』の弟は、その言葉をしたため、

『ブルガーコフ』家の遺言として自分の息子に

それを託し、そしてその息子もまたその子供

にそれを託し、連綿と受け継がれたその宝石

箱を求め、私は二十五歳の時、ついに

≪ブルガリア≫へ旅立ったのです。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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