『赤いバラの花の女神』 その依頼の理由 (一)

文字数 893文字

 「私には、心から幸せになっていただきた

(かた)がいらっしゃいます。


 今度こそ、今生(こんじょう)で幸せになっていただきた

いのです。


 導光さま、お願いです。


 片目の鳥『ケツァール』を日本に連れて来

てください。


 その鳥は、ある時期が来るまでその場所か

らけっして離れることができない鳥。


 しかし、その時がやっと来たのです。


 私の大切な(かた)を幸せにするために、

そして、その鳥をすべての苦しみから解放する

ために、何としてもあなたのご協力が必要な

のです。」





 『赤いバラの花の女神  マリア』は
五百年ほど前、ヨーロッパのある国に生きた
一人の青年をずっと見護(みまも)っていたそうだ。


 ところが、その青年は敵をかばったばかり
に兵士に殺されてしまい、その青年と将来を
誓い合った婚約者の女性は、悲しみのあまり
その青年のあとを追うように自らの命を絶っ
たと言う。



 「私はその方が大好きでした。


 本当に素晴らしい方でした。


 けっして裕福な暮らしではありませんでした

が、とても気高く、美しく、そして誠実な

お心の持ち主。


 私たち『バラの花の神々』もそう。


 バラの花が気高く、美しく、そして人々を

魅了するように、その方も人々に尊敬され、

とても魅力的な方でした。


 近くに住む美しい女性と結ばれ、幸せな人

生を歩むはずでしたのに。


 その女性は幼いころ、両親に先立たれ、

親類の家で育ちましたが、けっして幸せで

はなかったのです。


 彼女にとってその方は心の支えであり、

すべてでした。


 人生のすべてであったその方を失ってしまっ

たあと、追い打ちをかけるように、となり町

の、ある資産家との結婚話が持ち上がり、

貧しかった育ての親は、彼女にその資産家と

の結婚を勧めるようになり、育ててもらった

義理の両親への恩義と愛する人とはもう結婚

できないという絶望との狭間(はざま)葛藤(かっとう)していた

彼女は。。。


 なんといたわしいことか。


 自ら命を絶ってしまったのです。



 自ら命を絶つ。
 

 これは人がけっしてしてはいけない行為。


 彼女は神から罰を受け、再びその方と出会

うために、五百年もの間、待ち続けなければ

ならなかったのです。


 しかし、やっとその罪が許され、

今度こそ結ばれるべき時が来ました。」
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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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