『ビリー』、君は心の友

文字数 1,193文字

 自然が満ちあふれている、この山小屋での
暮らしが、『マニュエル』は好きになった。


 ここで暮らすまで、山にはまったく興味が
なかった。


 むしろ危険な野生動物だらけで恐ろしい
場所だと思っていた。


 (住めば(みやこ)か。


 これも『ビリー』のおかげだな。)


 暖炉の中に(たきぎ)を積み、火をつけた。


 そして、『マニュエル』は、いくつかに
()いたイノシシの肉を、細い鉄の棒で突き刺
し、暖炉の火に近づけた。


 肉は徐々に火が通り、油がポタポタと(したた)
落ちている。


 『ビリー』の目は、まさにその肉にくぎ
付けだった。


 そして、我慢できず、待ちきれないのか
その肉を前足で(つか)もうとする。


 「『ビリー』。 火傷(やけど)するぞ!」


 『ビリー』には、もはや『マニュエル』の
声などまったく聞こえていないようだった。


 肉を取り上げ、テーブルの上に置いた皿に
のせて食べやすいようにナイフで切っている
さなか、『ビリー』はテーブルに飛び乗り、
肉片にかぶりついた。


 目の前にナイフがあるのに、怖がる様子も
ない。


 「まったく。。。」


 ところが、『ビリー』にとって焼きたての
肉は熱すぎるのか、かじりついたはいいが、
あまりの熱さに肉をくわえたその口から肉を
ポトンと落としてしまう。


 肉をかじっては熱すぎて落とし、
またかじっては落とす。


 そんな『ビリー』の姿を見て
『マニュエル』は吹き出してしまった。


 「それは『ビリー』の分だよ。


 私は取らないからもう少し冷めてから

食べるといい。」


 『マニュエル』は、その皿にたっぷりの肉
をのせてあげた。


 『ビリー』はうれしそうにひたすら肉を
ほおばっていた。





 時々、まるで子供のようなしぐさをする
『ビリー』。


 そして時々、驚くほど(なぐさ)めてくれる
『ビリー』。


 『ビリー』が居てくれるだけで
『マニュエル』は幸せだった。





 ここにはすべてがあった。


 ランプに火を(とも)さなくても、夏には山小屋
近くの林に(ほたる)たちが(つど)い、辺りを明るく照ら
してくれる。


 山で息絶(いきた)えているオオカミの毛皮をはいで
上着を作れば、寒い冬は暖かく過ごすことが
できる。


 野菜が食べたければ、畑に行けばいい。


 もう少し山奥に行けば山菜が採り放題。


 秋には、栗やクルミを拾えば小腹が()いた
ときの腹ごなしには最高だ。


 山は、『マニュエル』にとって大好きな
キノコの宝庫でもある。


 名前はわからないが、香りのよいキノコが
たくさんあるのだ。


 以前、敵国で、サバイバルに必要な知識を
得た中に、食用のキノコについて学んだこと
があった。


 毒性のキノコもあるので注意が必要だが、
知識があれば大丈夫だ。


 でも、『マニュエル』にとって何よりも
かけがえのないもの。


 もちろん。。。


 それは山ネコ『ビリー』の存在。


 そして、『ビリー』が連れて来てくれた
山の友人たち。


 いつもそばで自分を元気づけてくれる彼ら
の存在が、『マニュエル』にとっては何より
の支えだった。



 こうして『マニュエル』は、山で暮らし続
けた。


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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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