宝石箱作り

文字数 1,007文字

 それから『マニュエル』は、山で木材を
探し、作業に取りかかった。


 材料はすべて自然由来のもの。


 頭の中で、その宝石箱のイメージを描いて
みた。


 ハート形の(ふた)の中心には浮き彫りにした
薔薇の花をあしらおうか。


 箱の部分はどうしよう。


 幾何学模様(きかがくもよう)を描いた寄木細工(よせぎざいく)にしたら
どうか。


 だが、どのようにハート形にすれば
いいのか、毎日が試行錯誤(しこうさくご)の連続だった。


 来る日も来る日も頭の中は宝石箱のことで
一杯の毎日。


 何としても二人の結婚式に間に合うように
渡したい。。。


 (あせ)る気持ちを抑え、『マニュエル』は
ひたすら考えた。


 ハートの形にするためにはどうしても木に
カーブをつけなければならない。


 (いったいどうやって曲線を作れば

いいのだ。


 木というものは曲がるのか?)


 その時、『マニュエル』は、『アレン』の
作業場にあった椅子を思い出した。

 
 (あっ、そうだ。。。


 あの椅子。 あの椅子の背もたれ。


 たしか曲線だったはず。)


 『マニュエル』は、以前『アレン』が木の
特徴を説明してくれた時のことをふと思い出
したのだ。


 「これは(ぶな)という木なんだ。


 職人泣かせの木とも言われていて、

使い勝手が悪いんだ。


 小さい時に父親の仕事場でよく遊んでいた

けど、この(ぶな)の木だけがいつも使われずに

そのままその辺に放置されてて。


 好きに使っていいって言われてたから

この木でいろいろ試してみたんだけど。


 ほんとに扱いにくくてさ。


 でもある日、ずっとこの木を見ていたら、

ほらっ、ここ。


 なんか(すじ)のような、(くだ)のようなものがある

だろ? 


 ひょっとして曲がるんじゃないかと思って

細く切って、ちょっと曲げてみたら曲がったん

だよ。


 もしかしたら椅子の背もたれにならないか

なってその時思ったんだ。


 角ばった背もたれの椅子は多いけど、曲線の

背もたれの椅子って見かけたことないし。


 固い柱にくるっと引っ掛けて曲げるんだ。


 二人がかりでやらないとなかなか曲げられ

ないけど、すごいだろ? 


 父親の話では、この木は水辺でよく育つら

しいんだ。


 でもその分腐りやすいし、乾燥させるにも

時間がかかる。


 だけど曲がりやすいんだ。」



 『アレン』はそうやって木の特徴をよく
説明してくれた。


 この山でも(ぶな)の木は豊富にある。


 「そうだ。 (ぶな)の木で作ってみよう。」


 『マニュエル』にとって、こんなに何かに
没頭し、夢中になれる充実した日々を過ごせ
たのは生まれて初めてだった。


 毎日が、毎日が本当に楽しかった。
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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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