『アレン』という理解者

文字数 1,158文字

 『マニュエル』の身に詰まる話を聞いて
『アレン』は言った。


 「なんてことだ。。。


 本当なのか? 『マニュエル』。

 
 信じられない。

 
 君が敵国に売られたなんて。。。


 そして。。。


 君の家族が殺されたなんて。。。」


その『アレン』の言葉に、ただうつむき、
泣きじゃくっている『マニュエル』。


 「なんて悲惨なんだ。


 あまりにも(むご)すぎる。


 その敵国のやり方だ。


 人間のやることじゃない。




 『マニュエル』、君は被害者だ。


 人殺しなんかじゃない。


 そうしなければ

生きていくことができなかった。


 そういう生き方に

追い込んでいく卑劣(ひれつ)なやり方。


 けっして許されることじゃない。




 死んではだめだ。 『マニュエル』。



 (つら)く悲しいのはわかる。




 でも。。。



 僕は君に生きていてほしい。
 

 君のお兄さんは、君を助けるために

あえて自分の命を犠牲にしたんだろう。


 そして、心の中で君に()びたはずだよ。


 きっとお兄さんは、君に感謝していたん

じゃないかな?


 だって君のおかげで、お兄さんは夢を実現

できたんだろうから。


 君が一日も家族のことを忘れられなかった

ように、きっと君のお兄さんも君のことを

一日も忘れたことはなかった。


 だから十年間、一度も会ったことがなかっ

たのに、お互いすぐに兄弟だとわかった。


 君たちは、それほど強い絆で結ばれていた

んだと思う。


 こんな形で家族と再会し、

こんな形で家族を失った君が、

どれほど心に深い傷を負っているか。。。


 それは君にしかわからない。


 僕が何を言ったって、(なぐさ)めにも

支えにもならないだろう。





 ただ一つ言えるのは。。。


 それでも僕なら生きていく、

ということだ。


 僕が君の立場なら、それでも生きる。




 なぜなら。。。


 死んだところで、

すべてが消えるわけじゃないから。

救われるわけじゃないから。




 一番罪を問われるべきは、

君をそんな状況に追い込んだ敵国。


 人と人との絆、家族との絆、

大切な人と人との繫がりを

卑劣(ひれつ)なやり方で断ち切り、

強引に悪の絆で結びつけようとする。


 そして、その敵国の甘い(わな)に負けて

しまうのは、貧しいから。


 貧しさは人の心をむしばむ。


 (かね)は確かに必要だ。


 こんな世の中、貧しい家に生まれたら、

貧しさが一生付いて回る。


 何のために生まれてきて、何のために

生きるのかわからなくなる。


 誰も助けてくれない。


 一家の生活も、人生もすべて自分の肩に

のしかかってくる。


 君のお父さんもきっと悩んだと思うよ。


 こうなったのは君のせいでもない。


 お父さんのせいでもない。


 みな精一杯やれることをやって生きて

きたはずだ。


 それぞれが、それぞれの状況の中で

与えられた数少ない選択肢の中から

選ばざるを得なかった答えがそれだった。


それしかなかった。


そういうことじゃないのかな?」


『マニュエル』は、『アレン』の話を
じっと黙って聞いていた。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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