兄よ

文字数 564文字

 そして『隊長』にもすぐにわかった。


 押し入った家の一家が、かつての自分の
家族だったということが。




 すべてが遅すぎた。


 今、自分の目の前にいるのは実の兄。


 優しかった兄。


 養子に行くことを最後の最後まで反対して
くれた兄。





 「『隊長』。


 早くその男を()って下さい。


 何を戸惑っているのですか?」



 その言葉を耳にしても、剣を持つその手を
兄に向かって振り上げることは出来なかった。





 殺せなかった。



 兄だけは。





 (はな)(ばな)れになって十年。


 敵国で、スパイとして養成され、
ただひたすらその国のために尽くせと
頭に(たた)き込まれてきた。


 ≪お前たちの親を(うら)め。


 兄弟を憎め。


 お前たちの親は、(かね)と引き換えに

ボロキレのようにお前たちを捨てたんだ。≫



 ほとんどの子供たちが、祖国や愛しい家族
に対する追慕(ついぼ)から憎悪(ぞうお)へと気持ちが移り変わ
っていく中で、唯一この『隊長』と呼ばれる
男だけは、いつも心の片隅に家族に対する思
いを抱き続けてきた。


 (きっと父親は。。。

あの仲介人に(だま)されてしまったんだ。


 自分が敵国にいるとは思っていない。


 幸せな人生を歩んでいると思っているに

違いない。)


 敵国に忠誠を誓っているように(よそお)いながら
も、ずっと家族の幸せを願っていた。


 本当に優しい人間だった。


 最後まで家族を信じていた。



 それがまさか。


 こんな形で再会することになろうとは。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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