兄よ
文字数 564文字
押し入った家の一家が、かつての自分の
家族だったということが。
すべてが遅すぎた。
今、自分の目の前にいるのは実の兄。
優しかった兄。
養子に行くことを最後の最後まで反対して
くれた兄。
「『隊長』。
早くその男を
何を戸惑っているのですか?」
その言葉を耳にしても、剣を持つその手を
兄に向かって振り上げることは出来なかった。
殺せなかった。
兄だけは。
敵国で、スパイとして養成され、
ただひたすらその国のために尽くせと
頭に
≪お前たちの親を
兄弟を憎め。
お前たちの親は、
ボロキレのようにお前たちを捨てたんだ。≫
ほとんどの子供たちが、祖国や愛しい家族
に対する
っていく中で、唯一この『隊長』と呼ばれる
男だけは、いつも心の片隅に家族に対する思
いを抱き続けてきた。
(きっと父親は。。。
あの仲介人に
自分が敵国にいるとは思っていない。
幸せな人生を歩んでいると思っているに
違いない。)
敵国に忠誠を誓っているように
も、ずっと家族の幸せを願っていた。
本当に優しい人間だった。
最後まで家族を信じていた。
それがまさか。
こんな形で再会することになろうとは。
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