『ビリー』、その野生の本能

文字数 914文字

 ある日、『ビリー』と山菜を取りに行く
途中、空から四、五羽の(わし)が地上に降り立つ
姿を見た。


 近づいて見てみると、オオカミに襲われた
イノシシが息絶えて草むらに横たわっていた。


 それを見ていた(わし)が、イノシシの周りで
鋭いくちばしを使い、満足そうに獲物である
そのイノシシをほおばっていたのだ。


 その時、『ビリー』がイノシシの方に駆け
寄り、すごい叫び声をあげた。


 まるで野獣が雄叫(おたけ)びを上げるようだ。


 その『ビリー』の姿と叫び声に驚き、
鷲たちは恐れをなしてどこかに飛び去って
しまった。


 『マニュエル』は、そんなビリーの姿を初
めて見た。


 「そうだよな。


 君にとっては久しぶりの大きな獲物。


 きっとオオカミに襲われたんだろうな。」


 『マニュエル』は、イノシシにかぶりつい
ている『ビリー』をなだめ、背負っていた(かご)
の中にイノシシを押し込んだ。


 「『ビリー』。 《神》に感謝しよう。


 君には申し訳なかったが、私は、例え生き

るためでも動物は殺さないと決めたんだ。


 だからほとんど山の動物を口にしたことは

ない。


 本当は、今日も遠くの川の方まで下りて、

魚を獲って帰ろうと思ったんだが。


 久しぶりに、おいしい肉にありつけそう

だな。」


 『ビリー』はすごくうれしそうだった。





 帰る途中、何かが道の前方を横切った。


 一瞬だったので、『マニュエル』にはわか
らなかったが、野生の『ビリー』は見逃さな
かった。


 『ビリー』は、そのまま横切った何かを
追いかけて草むらの中へ入って行ってしまった
のである。


 「『ビリー』。 『ビリー』。


 戻ってくるんだ。


 獲物はもう十分だ。」


 そう叫んでしばらく待ったが、『ビリー』
は戻ってくる様子がない。


 「ふぅ。。。」


 『マニュエル』はため息をついた。


 『ビリー』は山ネコ。


 どうも野生の本能は抑えることができない
ようだ。


 その時突然、草むらの中でガサガサと音が
した。


 見ると、『ビリー』に追いかけられている
何かが逃げ回り、再びこちらに向かって逃げ
戻ってきたようだった。


 その何かを追いかけ、『ビリー』が姿を現
した。


 「『ビリー』、やめろっ。


 もういい。」


 今度は『マニュエル』のその声が聞こえた
のか、『ビリー』は仕方なく追うのをあきら
めた。


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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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