『マニュエル』の後悔

文字数 947文字

 薔薇の花畑の中で横たわる『アレン』の
痛ましい姿を()の当たりにしてしまった
『マニュエル』は、ショックのあまり、
しばらく呆然(ぼうぜん)としていた。


 そして。。。


 「『アレン』。。。 『アレン』。。。


 どうして。。。


 どうしてなんだ。。。


 どうしてそこまでして私を。。。 


 私は、君の人生を台無しにしてしまった。


 すまない。。。


 『アレン』。。。」

 泣きながら、そう(つぶや)いていた。


 「こんなことになるくらいなら。。。


 やっぱりあの時、兵士を殺しておくべき

だったのか。。。」




 兵士を殺すことは、スパイとして養成され
た『マニュエル』にとって、さほど難しい
ことではなかった。


 だが『マニュエル』は、もう誰も手に掛け
たくはなかったのである。


 「なんてことだ。。。


 私の決断が。。。


 最悪の結果を招いてしまった。。。」


 『マニュエル』は、流れる涙を(ぬぐ)いもせず、
後ろ髪を引かれる想いで『アレン』の元から
去った。


 (私が浅はかだった。


 宝石箱を。。。


 この宝石箱を、どうしても『アレン』に

届けたかったから。


 自分の想いばかりが先走り、その行動が、

結果的に『アレン』を危険にさらすことにな

りかねない。


 そのことを、私は考えてもいなかった。


 『アレン』の幸せを一番願っていたはずな

のに。。。


 幸せどころか死に追いやってしまうという

最悪の失態を、私はしでかしてしまった。


 贈り物さえ届けられれば、もうそれで満足

だった。


 あとはどうなってもいいと思っていた。


 その安易な考えが、相手の命を奪ってしま

うなんて。。。)


 そう心の中で叫びながら、気づくと
『マニュエル』は、山の中を彷徨(さまよ)っていた。



 『マニュエル』は自分を(のろ)った。




 (『アレン』。。。 申し訳ない。


 私のために。。。)


 心の中で、何度も何度も『アレン』に()
ながら、無我夢中で走り回った。


 (今度こそ、本当に死に場所を見つけ、

命を絶つんだ。


 もう生きていたくない。


 もうたくさんだ。


 いったい私はどれだけの人たちを犠牲にす

ればいいんだ。


 兄も。。。『アレン』も。。。


 みんな私をかばって自らを犠牲にした。


 私を殺してくれっ。 


 兄さん。。。 『アレン』。。。 


 誰でもいい。


 私を殺してくれ。。。)


 『マニュエル』は、ただひたすら死に場所
を求め、山の奥へ、奥へと進んでいった。
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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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