『赤いバラの花の女神』 その依頼の理由 (二)

文字数 1,195文字

 そう話す『赤いバラの花の女神  マリア』
の美しい瞳は涙でうるんでいた。


 敵をかばったその青年は、肩から胸にかけ
て、兵士に剣で深く切りつけられ、ひん死の
状況の中、最後の力を振り絞って愛しい女性
に会いに行こうとした。


 ところが途中で力尽き、最後は薔薇の花畑
の中で倒れ、そのまま亡くなったと言う。


 もうすぐ結婚するはずだった彼は、結婚式
の時にはこの薔薇の花畑の薔薇で愛のブーケ
を作り、彼女に渡すのを楽しみにしていた。


 山の(ふもと)の小高い丘に咲くローズピンクの
美しい薔薇の花畑。


 まるで深紅(しんく)の薔薇と純白の薔薇が寄り添う
ような美しい色合いの可憐(かれん)な薔薇の花々。


 まさにその薔薇こそ、
美しい彼女にふさわしい花であった。


 『赤いバラの花の女神  マリア』は
話を続けた。



 「亡くなってしまったその方の(かたわ)らで

悲しみに打ちひしがれていた私の元に、

ある男性が泣きながら近づいてきたのです。


 その人は、あの方が命を懸けて守った人で

した。



 「「私のせいです。


 私のことをかばったばかりに。。。


 私はやはりあの時

死んでいればよかったんだ。


 そうすれば。。。」」


 ひざまずき、むせび泣くその人に

私は言ったのです。


 「「もはやこの方はけっして生き返ること

はありません。


 今生(こんじょう)で幸せになるはずだったこの方の

人生をこんな形にしてしまったあなたの罪は

けっして許されることはないでしょう。


 ひたすらその(あやま)ちを()(あらた)め、一生

この方に()びることです。


 この薔薇の花畑は毎年六月にその花を咲か

せます。


 花が咲いたら二十本の薔薇でブーケを作り

なさい。


 そしてそのブーケをここに(ささ)げ、この方に

()びるのです。


 そのブーケはこの方が愛する女性に贈りた

かった真実の愛の(あかし)


 それで罪が許されるかどうかは

わかりません。


 でもあなたにできることは、もうそれしか

ないのです。


 命尽きるまで生き抜き、その一生をただひ

たすら懺悔(ざんげ)の日々で過ごすことです。」」


 その人は何度もうなずき、

ただただ泣きじゃくるだけでした。


 その後、その人は、山奥にひっそりと一人

で暮らし、毎年六月、薔薇の花が満開になる

ころ、二十本の薔薇のブーケを作り、亡くな

った私の大切な方に捧げ続けたそうです。


 花の精霊の話によれば、その後、片目の鳥

となり、毎年六月になるとどこからともなく

現れて、ずっと薔薇の花畑を見ているという

ことでした。」


 『赤いバラの花の女神  マリア』の
依頼は、その鳥を日本に連れて来てほしい
というものだった。


 幸せにしたくても幸せにすることができな
かった大切な人。


 その人に今度こそ幸せになってほしい。 


 そしてそのためにはその鳥の力が必要だ
と、『赤いバラの花の女神 マリア』は
強く、強く訴えたのである。


 鳥の願いを叶えれば、殺されてしまった
その青年だけでなく、かつて人間であった
その鳥もすべての罪から解き放たれ、浄化(じょうか)
を果たし、因縁(いんねん)は消え、二人とも幸せにな
るのだと言う。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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