引き金になった『輝羽』のひと言

文字数 1,745文字

 「ねえ。 


 話は変わるけど、お父さんとお母さんは

神前結婚式を挙げたんでしょ?」


 「何だい?


 急にそんな昔のことを聞いたりして。」


 「私、理想の人は、お父さんみたいな人

なの。


 見つかるかな~?」


 「まあ。。。無理だろうな。」


 「どうして?」


 「お父さんは、お父さん。


 この世に一人しかいないからな。」


 「そうよね。」


 「なんだ。 案外あっさり認めるね。」


 「『輝羽』も、きっとそのうち、いい人に

巡り逢えるさ。」


 「ホントに?」


 「ああ。 そんな気がするよ。


 『輝羽』のことを心から大切に想ってくれ

る人に巡り逢えるさ。」


 「お父さんがそう言ってくれるなら、

私、信じるっ!


 でも、私、結婚しても絶対にこの家からは

出ない。」


 「えっ?」


 「婿養子(むこようし)になってもらうの。」


 「それは無理だろ。


 (うち)には跡継ぎの『縁成(えんじょう)』もいる

しな。。。」


 「あらっ? 


 別に跡継ぎは男じゃなくてもいいじゃ

ない。」


 「そりゃあ、どちらでもいいけど。。。」


 「『縁成(えんじょう)』は、「「別にこの家を出ても

いい。」」って、そう言ってたし。


 「「自分には、(みんな)みたいに霊能力なんて

全然ないから。」」って。」


 「。。。。。。」




 この時『輝羽』は、急に黙り込んでしま
い、顔色が変わった父の導光を見て、一瞬
不思議に思った。


 だが、一度決めたら引かない『輝羽』。


 「お父さん。


 だから、絶対に私が昇龍家を継ぐね。」


 「『縁成(えんじょう)』が本当にそんなことを言ってた

のか?」


 「うん。 そうだけど。。。


 それがどうかしたの?」


 「いや。。。」


 「跡継ぎは、そんなに男じゃなきゃダメ

なの?」


 「そんなことはないよ。」


 「なら、決~まり!」


 そうは言ったものの、自分のひと言が、
何かを引き起こすことになってしまった
ように感じた『輝羽』は、ちょっと心配に
なった。

 「とにかく。。。

 
 私は、この家に残るから。」


 「『輝羽』がそうしたいなら、そうすれば

いいよ。」


 「だって。。。


  私、『昇龍』っていう私の姓が大好き

なの。


 この姓、絶対に変えたくない。」


 「えっ? 理由はそれなのか?」


 「そう!」


 「まあ、それも人それぞれ。


 どちらかと言えば、自分の姓にこだわりが

あるのは、むしろ男の方だと思うんだが。


 『輝羽』は小さい頃から《龍》が好き

だったもんな。


 だが、《龍》との縁は、昇龍家の歴代の

先祖よりも、むしろ『縁成』の方が深いかも

しれない。


 『縁成』は、そういう運命の(もと)

生まれた子なんだ。」


 「『ゴッド』も確かそう言っていたけど、

そんなことどうでもいいの。


 とにかく私、もう決めたから。


 というか、ずっと前から決めてた。


 『縁成』は『縁成』。 私は私。


 私の自由にする。」






 「やれやれ。。。」





 一度言いだしたら誰が何と言おうと
聞く耳を持たない娘の『輝羽』。


 そんな娘の思いもしなかった何気ない
ひと言が引き金となり、それが、導光に
子どもたちにまつわる昇龍家の二つの
≪神託≫を思い起こさせるきっかけを
作ってしまった。


 『輝羽』と『縁成』。


 二人の子どもたちは、共に昇龍家に代々
伝わる≪神託≫の子なのである。


 ≪神託≫とは、《神》より託される言葉。

 それは、《神々》に(とど)まることなく、あら
ゆる聖なる存在からの言葉をも含むもので
ある。

 言い換えれば、《神》の(めい)により、《神》
に代わって成し遂げるべき使命。

 それこそが、≪神託≫。


 一つめの『輝羽』にまつわる≪神託≫。

 それは、あの時『マリア』が言っていた
ように、もうすぐ『輝羽』が迎える転機の
ことである。


 すでに導光は、その『輝羽』の転機の訪れ
を感じ取っていた。


 そして、二つめは、息子の『縁成』にまつ
わる≪神託≫。


 あれからもうすぐ十五年になる。


 あの時から導光は、いつかは息子の
『縁成』に真実を告げなければならない
時が来る。。。


 その緊張感とずっと戦い続けてきた。


 導光は、とてつもない使命を背負うことに
なってしまった息子に、その使命を全うさせ
る役割を引き受けざるを得なかった自らの
責任の重みに、ともすれば押しつぶされそう
になるところを、今までギリギリの思いで
耐え続けてきたのである。


 そして、一つめの『輝羽』にまつわる
≪神託≫が、いよいよその幕を開けようと
しているのであった。



 花鳥の巻 その一         終
  
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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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