和解の時

文字数 1,413文字

 「その『満』の願い、この『ゴッド』が

必ずや実現させましょう。」


 そう言うと『ゴッド』は、再び
『マニュエル』に尋ねた。


 「『マニュエル』よ。


 そなたに注ぐことができなかった、かつて

の家族の愛。


 その愛は、将来『アレン』の魂を持つ

『満』から注がれる愛に勝るとも劣らない

(とうと)きものだと思いますが、いまだにそなたの

考えは変わりませんか? 


 受け取りを拒否する気持ちに変わりはあり

ませんか?」


 『ゴッド』のその問いかけに
『マニュエル』はしばらく黙っていた。


 「『マニュエル』。


 どうか受け取ってあげてほしい。


 僕が、この僕が。。。


 必ず君を幸せにするから。。。」


 『ゴッド』を後押しする『満』の救われる
ようなひと言。







 その言葉で、『マニュエル』は決意を固め
たようだった。



 「『アレン』。 ありがとう。


 君がいてくれたから私はここまでやって

来れたのです。


 ずっと逢いたいと思っていました。


 そして、とうとう逢うことができた。


 今日この日まで、私はこの想いを抱き続け

てきて本当によかったと思っています。


 『アレン』。


 君の優しい言葉で私は救われました。


 もう思い残すことはありません。」


 「ならば、受け取るということでいいの

ですね?」


 「はい。 『ゴッド』様。 


 受け取ります。」


 そうはっきり答えた『マニュエル』。


 (よかった。。。


 本当によかった。。。


 『満』君、よくやった。)


 導光は、ホッとしている『満』を見つめて
いた。




 あの時、先手を打って『満』に助言した
導光。


 実は、導光には、『マニュエル』の来世が
すでに視えていた。


 【龍の予言】


 『マニュエル』は、将来『満』の子どもと
して生を受け、両親の深い愛情の下、幸せな
人生を歩んでいく姿が視えていたのである。


 五百年前、同じ村で生まれ、知り合い、
そして親友として互いを理解し、助け合った
二人が、今度は親子として再び出逢うという
素晴らしい彼らの将来の姿。


 二人の縁は、もう五百年以上も前から
ずっと続いていた。


 そして、再び出逢う度に、その絆は深く、
強くなり、けっして途切れず(つむ)がれ続けて
きた。



 何という素晴らしき≪縁の連鎖≫。



 『マニュエル』が一番望むこの人生を
創造してくれたのは、他でもない
『デスティニイ』であった。


 運命を司る《神》『デスティニイ』は、
今度こそ『マニュエル』が心から幸せだと
思える人生を贈ったのである。


 『ゴッド』もすでに了承しているこの
決定。


 だが、これは《神》のみぞ知ること。


 《神》であっても他言はできない。


 そして、《神》であっても説得できるとは
限らない。


 すべては、『マニュエル』の決断次第で
あった。


 『マニュエル』にどう決断させるか。。。


 どう説得するか。。。


 そこが、導光の腕の見せ所。


 一番救われるべきは『マニュエル』。


 だが、『マニュエル』の感情を優先させる
ということは、『マニュエル』の家族の想い
を無視してしまうこと。


 すべての存在を救うことにはならないので
ある。





 《祈祷師》





 それは、けっして表に出ず、けっして感情的
にならず、それに関わるすべての存在にとって
最善の道を探り、幸せへと(いざな)う人。


 常に自らを律し、精神を研ぎ澄ませ、
心静かに物事を観る。


 何が最善なのか見極める目と、聞き極める
耳と、そして[邪念]のない澄みきった静かな心
を保ち続ける強い意思がなければ務まらない
非常に繊細かつ精神的な存在。


 心の中で、導光は、安堵(あんど)のため息をついて
いた。

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登場人物紹介

昇龍 導光《しょうりゅう どうこう》


代々続く祈祷師の家系に生まれた。昇龍家第四十八代当主。五十歳。

非常に高い霊能力を持つ。

ダンディで背が高く、スポーツマン。 

物腰柔らかで一見祈祷師には見えない。

導光が愛するものは何といっても龍と家族そしてスイーツ。

持って生まれた類まれなる霊能力と格の高い魂で、様々な視えざる存在と対峙しながら

迷える人々を幸福へ導くことを天命の職と自覚し、日々精進を重ねるまさに正統派の祈祷師。

昇龍 輝羽《しょうりゅう てるは》


導光の娘。ニ十歳。 

聖宝德学園大学 国際文化学部二年生。両親譲りの非常に高い霊能力の持ち主。

自分の霊能力をひけらかすこともなく、持って生まれたその力に感謝し、

将来は父のような祈祷師になりたいと思っている。

龍と月に縁がある。

龍を愛する気持ちは父の導光に劣らない。

穏やかな性格だが、我が道を行くタイプ。

自分の人生は自分で切り拓くがモットーで、誰の指図も受けないという頑固な面がある。 

浄魂鳥《じょうこんちょう》ケツァール   /   マニュエル


普通の人には見えない、いわゆる霊鳥。

五百年前、『マニュエル』という名の人間としてある国に生きた前世を持つ。

あまりにも壮絶な過去を背負ったがために転生できず、

ある想いを果たすため『浄魂鳥』としてこの世に存在し、

その時をずっと待ち続けてきた。

花畑 満《はなばたけ みちる》 / アレン


二十歳。『輝羽』と同じ大学で同じ学部の同級生。

日本人離れした端正な顔立ちの美男子。

五百年前、人間であった『浄魂鳥』と同じ村に住んでいた『アレン』という名の若者の前世を持つ。

十五年前に亡くなった叔母の遺言がすべてを明らかにするカギを握る。

野原 美咲《のばら みさき》/ 満の伯母 


十五歳。聖宝德学園大学付属中学三年バラ組。

十五年前に亡くなった『花畑 満』《はなばたけ みちる》の叔母の前世を持つ。

その時の記憶を持ったまま生まれてきた。

『満』《みちる》同様日本人離れした顔立ちの超美人。積極的な性格。

赤いバラの花の女神 マリア


とにかく美しいものが大好きな女神。

導光の元を訪れ、ある国にいる『浄魂鳥』を日本に連れて来てほしいと依頼する。

すべての出来事はこの依頼から始まった。

その『浄魂鳥』の想いを果たすことができれば、自分が見護っていたある人も

幸せになれるのだと導光に訴える。

白いバラの花の男神 ローマ


『赤いバラの花の女神 マリア』の許婚《いいなずけ》。

いつも『マリア』に振り回されている『マリア』一筋の男神。

ある事情で結婚を先延ばしにされてしまう。

天の神から頼まれ、導光の家に届け物をする。

それは『浄魂鳥』と深い関わりのあるものなのだが。。。

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