第46話

文字数 774文字

「……真琴。こないだ本屋で会った男のこと、どう思ってる?」

「え?」

 私の質問には答えず、逆に質問してくる陸に言い返そうとするけれど、切実さを帯びた瞳に、何も言えなくなる。口を少し開けたまま黙ってしまった私を、陸はじっとを見つめたあと、口、開いてる、と言って笑った。

 陸は掴んでいた手首を離すと、今度は遠慮がちに私の指先をそっと握った。触れられた瞬間、ビクリと震え思わずごくんと息を飲みこむ。手首より指先のほうがより敏感に、流し込まれてくる陸の熱を感じてしまう。

幼稚園のとき繋いだ、柔らかな手のひらとはまるで違う。硬い骨ばった感触。陸の手のひらから伝わってくる熱に、ジンジン脈打つような痛みすら感じてしまう。ただ触れているくらいの力なのに。

 仲良しだから。そういってなんの意図もなく、手を繋いで笑いあっていた幼い頃とはまるで違う。感情をあまり表に出さず、じっとこちらに視線を向けていた陸が、ぼそりと呟いた。

「……あいつのこと、好きなの?」

「……」

 陸は昔から鋭い。私の様子ですぐにわかってしまったのかもしれない。それでも秘めていたはずの片思いを、こんなふうにさらけ出されてしまうのは、まるで人前で服を脱がされてしまったようで。

 頬がかぁっと熱くなってしまうのを止めることができなかった。たぶん、顔はすごく赤くなっている。陸はどこか遠くのものをみつめるように私を見ていたけれど、相変わらずわかりやすいよな、と小さく呟いて、そっと目を伏せた。

「今の俺、わかってもらおうと思って」

「え?」

 陸は私を見ないまま、小さく吐息をついた。

「さっきの質問の答え。昔のままの俺だと幼なじみから卒業できない」

「……」

 それからゆっくり顔をあげて、まっすぐ私を見つめた。まるで心の内側まで射るような強い眼差し。

「絶対俺の方が真琴のこと、好きだよ。あいつより全然」
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