第107話

文字数 774文字

 今日は午前中授業。塾は夕方からだから、それまで穴場のカフェで勉強しようと陸に誘われて、ここにいる。確かに穴場だった。チェーン店でもなく、駅から離れているから混んでもいなくて、静かで落ち着けるけど……。教室のなかで、堂々と誘われるのは困ってしまう。女子たちの鋭い視線が背中にいくつも刺さったけれど、陸はお構いなしだ。

「ね、陸」

「うん?」

 淡々と参考書を見つめる横顔に、とりあえず呟いてみる。

「……私たち、付き合ってるって思われない?」

 陸はシャーペンを動かす手を止めて、ゆっくり私の方を見てニヤリと笑った。

「あー、そーかもしれないね」

「そーかもしれないって……。陸って女子に結構人気あるの、わかってる? なんで陰キャなあの子と、って私、浴びたくない注目を浴びているんだけど」

 静かなカフェだから、小声で、それでも文句はしっかりいうと、陸が可笑しそうに口元を緩めた。

「自分で陰キャっていう?」

「だって、実際そうなんだから仕方ない」

 陸は何かを考えるように視線を泳がせたあと、苦笑しながらため息をついた。

「真琴もわかってねえし」

「何をわかってねえの?」

 その、少し乱暴な口調をわざと真似して言い返してみる。陸はちらりと私を見ると、なんか喋り方おかしいよ、と言って小さく笑う。

「真琴も、男子の話題にちょくちょく出てくるの」

「え? 私が? なんで?」

 初耳だった。というか、自分が話題にされる要素が何も思い浮かばない。陸はノートを挟んでパタンと参考書を閉じた。

「ホントそのあたり無自覚なんだよな……」

「ナニその言い方」

 陸は眉をさげて、からかうように笑う。

「真琴ちゃんは無自覚だっていいました」

「その言い方もなんだか腹が立つ」

「話が進まないよ」

 陸はくすくす笑ったあと、少し真面目な表情に戻って私を見た。

「真琴、あの人と夜に一緒に歩いていたりしてただろ?」
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