第80話

文字数 907文字

「最近佐川くん、柔らかい印象になったよねって他の子とも話してて。だからクラスの飲み会にきたら、話しかけようって思ってた」

「私も! 話しかけてみたいなって思ってた!」

 女子達が興味津々、というように俺をみつめると、佐藤が大袈裟にため息をついてみせた。

「イケメンはいいよなあ。可愛い女の子たちに寄って(たか)って、そんなこと話し合われちゃってさあ」

 佐藤の恨みがましいコメントに、女の子たちがくすくすわらう。そうして巧みに、最近でた課題の話にさりげなく結びつけ、彼女らの注意をしっかり自分のほうにも引きつける。

 佐藤(こいつ)をLampoに引っ張ったら、客あしらいもうまそうだし、いい仕事をしそうだな。そう思いひとり苦笑しながら頃合をみてトイレにたった。手を洗いながら、鏡を見つめると、いつもの俺が見つめ返す。どこが変わったのか自分ではよくわからない。

 ただ周りからよく話しかけられるようになったから、きっと何かは変わったんだろうと思う。以前は、ほんの少しでもこちらのテリトリーに踏み込んで来られると、腹立たしく感じたし、些細な事でも敏感に反応して苛立つ自分にも、うんざりしていた。

 とにかくそんなものすべてをひっくるめて、人との付き合いが鬱陶しかった。今、その感じが和らいでいるのは確かだ。貴大さんや雫のおかげもあると思う。だけどやっぱり真琴の存在が大きいのかもしれない。

 真琴と、たわいもない話をしていて会話が途切れたとき。スマホの向こうから聞こえるあのねあのね、と慌てて話をつなごうとする声。俺との会話を、すこしでも長くしたい。そんな気持ちが痛いほど伝わってきて。つい笑ってしまって真琴に怒られてしまうけれど。

自分でも、おかしいんじゃないかと思うくらい、愛おしさがこみあげてしまう。いっそ切なくなるほどに。人を愛おしく思うことは、もしかしたら自分をも愛おしむことなのかもしれない。そんなことをふと思いついて、小っ恥ずかしくなって苦笑した。

 そういえば今日は1日課題や何かでバタバタして昼からろくにスマホを見ていなかった。ジーンズから取り出すと、メッセージが届いていることを示すグリーンの着信ランプが点滅していた。
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