第37話

文字数 691文字

 正直、俺の一番キライなめんどくさいシチュエーションだ。普段なら即、手を引いている。けれど今、俺は煩わしいとは思っていない。それどころか、あの睨んできたあいつが傍にいたら、睨み返して威嚇しているかもしれない。

「でも……」

 ぽとりと零れてきたか細い声に、真琴を見る。どこか、不安げに瞳を揺らしてこちらを見ている。

「遊さんと雫さんは……友達、以上の空気があったというか……」

 何を言い出すのか。そんなことをもにょもにょ言っているから、何それ、と笑ってしまった。

「そこ、笑うトコロじゃない」

 拗ねたようにいう真琴をみて、笑いをむりやり噛み殺して答える。

「あいつ、誰にでも馴染むから。それだけだよ」

 雫の、人に対する適応能力は舌を巻くほど。多少癖のある人間の懐にもすぽっと入って味方にしてしまう。そんな高度なコミュニケーション能力が磨かれたのも、俺と似たような家庭環境を生き抜くため、だったらしい。 雫にシンパシーを感じてしまうのは、そのせいなんだろう。ただ時々、おかしな奴まで吸い寄せて、揉めたりしているから、危なかっしい。

「じゃ、私も……」

「え?」

「私も遊さんに馴染む!」

 目をまんまるにしてそういう真琴に、一瞬呆気に取られたあと、つい吹き出してしまった。

「もう馴染んでるじゃん」

「ううん、馴染みが足りないから。もっと馴染む!」

 勢いよくそういったあと、少しモジモジして。それから思い切ったように口を開いた。

「……LINE、教えてもらっても、いい?」

 やっぱりまた、 ありったけの勇気を振り絞って近づいてきた小動物みたいな瞳をしてる。そんな()をして言われたら多分、どんな男でも断れない。
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