第57話

文字数 827文字

「う、嘘。遊さんが、私からのメッセージを、そこまで気にしてくれるなんて……。からかってる?」

 小さくてカサカサした声しかでない。あわてて目の前のアイスティーを飲んで、喉を潤す。

「こっちこそ聞きたいよ。なんで俺、そんな嘘なんかいう必要あるの?」

 ため息混じりでそう言い返されて。ブンブンと首を振る。

「だって……私みたいな高校生に、遊さんがそんなに反応してくれるなんて思ってもいなかったから」

 歳はあまり変わらないけど、遊さんは大学生。しかもLampoにくる大人の女性たちに人気だ。会社員のお姉さんから、それこそ私のお母さん年齢の社長さんまで。遊さんのファンがいるのを知っているし、彼女らを適度なクールさで上手にあしらい、リピーターを増やしていくのを、リアルタイムで見てきた。

 そのなかには美人さんだっているし、遊さんが一緒にいた雫さんなんて、プロのモデルレベル。そんな女性たちに囲まれているのに、ただの女子高生である私のことを、そこまで気にかけていたと言われても、すぐには信じられない。遊さんはまじまじと私の顔を見つめてから、少し真面目な表情で口を開いた。

「俺、自分から女の子に連絡なんて、滅多にしないよ? 真琴にだからしたんだけど」

 先に体が反応して、指先がぴくりと震えた。それからゆっくりと言葉の意味が、ココロに染み込んでくる。遊さんが決して上っ面でそういったのではなく、本心でいってくれたのが、声の温度や響きから伝わってきたから。
 
 息苦しくなるほどのうれしさが胸いっぱいに広がっていく。

「うん……。ありがとう」

 だから私も。素直に、気持ちのままそう呟く。すると遊さんも少し寄せた眉を解いて、ゆっくりと微笑んだ。

「真琴はこのあと塾、俺はLampoだから、あんまり話せないけど……」

「私は、顔が見れただけでもうれしい。遊さんを独り占めできるなんて、贅沢すぎる」

 締め付けていたネジが緩んでしまったら、ココロの声がダバダバ溢れてだしてきて、止まらない。
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