第98話

文字数 727文字

「やっぱり真琴か。遊のため息の原因」

 貴大さんは俺をからかうように楽しげに微笑んだ。そういわれるのは癪に障るけれど、仕方ない。

「……ここ数日、真琴から全く反応がないんですよ。今まではこちらからメッセージをおくったら、すぐに返信があったんですけど、なんにも言ってこないから……もしかして何かあったのかもしれないと思って」

 貴大さんは俺の言葉を聞いて、軽く瞳を見開いた。

「昨日、兄貴と話したけど、何も言ってなかったけどな。何か起きていたら、俺にはすぐいうはずだし」

「そうですよね。……受験生だし忙しいんでしょうね」

 そう言いながらもやっぱり腑に落ちない。だからといって勉強で忙しいだろう真琴に、しつこく連絡をいれるわけにもいかないから。そういって自分を納得させるしかない。

「うーん」

 貴大さんは両手を組んで、そのうえに顎を載せると、ニヤリと笑った。

「遊さ」

「はい?」

「なんか心当たりないの?」

「……真琴が連絡してこない理由の?」

「うん」

 そう言われても。いろいろ考えてみるけれど、おもいあたる節がない。

「全くないですね……。最後に連絡をとった時も普通だったし」

「……ふうん」

 貴大さんはちょっと考えるように視線を漂わせた後、また俺の方にそれを着地させて微笑んだ。

「断定はできないけど。真琴、拗ねているか、怒っているか。勉強とは関係ない、遊に関係するなんらかの理由があって、連絡するのをためらっているんじゃないかな」

「なんらかの理由、ですか?」

「そう。だってさ、真琴が勉強に集中しすぎて、遊に連絡するのを忘れるとか、そういう仙人タイプじゃないのは俺が一番よく知ってる」

「仙人タイプって……」

 つい笑ってしまうと、貴大さんも目尻に小さな皺をよせて、一緒に笑った。
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