第99話

文字数 984文字

「真琴が生まれてからずっとみてきてさ。女の子って、男よりも敏感に空気を察するし、周りとのバランスを重視する生き物なんだなあって思ったんだよね。そりゃ、時々感情的になってブチ切れるコトもあるだろうなって納得したわ」

 そうなのか? よくわからなくて首を傾げると、そんな俺を見て笑った。

「つまりさ。あいつなりに、なにかのバランスをとろうとしてて、それが、遊との距離を置くこと、なのかもしれないと思ったわけ」

 俺を試すように、その薄い茶色の瞳がじっとこちらを見つめてきた。その真意を探るように見つめ返すと、貴大さんは表情を緩めて、なーんてね、と言って笑った。
 
「まあ真琴のことだから、そんな深刻な理由なんてなさそうだけど。受験生だし忙しいんだろ」

「……脅かさないでくださいよ」

 曖昧に微笑んでみたけれど、どこかでひっかかる。第六感的なものが、それらの言葉があながち間違っていないかもしれないと伝えてくる。

 壁にかかっている時計をみる。10時半。

「貴大さん」

「なに?」

 面白そうに細められた瞳に構わず、たずねた。

「今日はもう、あがってもいいですか?」

 彼は口元で柔らかなカーブを描いて頷いた。

「いいよ。こんな天気だしどーせ客なんかこなさそうだから。来たとしても、俺ひとりでどうにでもできそうだしね」

「ありがとうございます」

 やっぱりまだ、楽しげに俺をみている貴大さんの視線に、なんですか? と苦笑する。

「いいなあって思ってさ。なんか青春って感じが羨ましいわ」

「青春って……。どこがですか」

 貴大さんには色々見透かされている。そんな照れもあってつい、ガキっぽく拗ねたようにいってしまう。

「その真っ只中にいると、気づかないんだよ。俺みたいに年を重ねたら、あーアレが青春だったなあってわかるようになる」

 そういいながら、いたずらっぽく見つめてくる瞳が、歳を重ねた、いい大人のそれでは、決してない。

「貴大さんだって、若いじゃないですか。



 俺もお返しにからかうように言うと、今度は貴大さんがガキっぽく口を尖らせた。

「中身がってそれ、ほめてねえだろ」

 同時に吹き出してひとしきり笑ったあと、貴大さんは穏やかな口調で言った。

「早くいけ遊。後悔しないように」

 まるでなにかを後悔を抱えている。そんな深い響きのある声でそういったあと、それを軽く打ち消すように、得意のウィンクをしてみせた。





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