第26話

文字数 955文字

「あの、叔父を知っているんですか?」

 彼女はなぜか困ったように視線をそっと外して小さく笑った。

「うん。貴大さん、よく知ってるよ」
 
「私、お店によくいくんですけど、あなたを一度も見たことないです」

「うーん。Lampoにはあまり行かないからなあ。たまにいっても夜中とかだし。ねえ遊、そうだよね?」

 そういって遊さんに同意を求める彼女を見つめる。

 じゃあどうして遊さんとこうして一緒に昼間に歩いているんですか? 二人はつきあっているんですか? そう聞きたくて仕方ないけれど、やっぱり何も言えない。遊さんはただ、知らねえよ、とかなり素っ気なく答えた。

「なんでそんな難しい顔してんの? 雇い主である貴大さんの姪っ子ちゃんでしょ? もう少し愛想よくしたら?」

「……俺はいつもこうだから」

「お店ではもう少し愛想いいじゃん」

 彼女はわくわくした様子で遠慮なく、遊さんにツッコミをいれる。そんな二人の、気を許した空気を感じるだけで胸が苦しくなる。

 ちらりと遊さんを見上げる。今は前髪をおろしているから、表情はよくわからない。ただなんとなく声の感じから、機嫌が悪そうなのは伝わってくる。いつもの不愛想とはまた違う、イライラした空気を纏っている。

 彼女とのデートを邪魔されて気分が悪いのかもしれない。そう思うとさらに落ち込みそうになる。

「そうだ。私の名前ね、雫っていうの。あなたは?」

 彼女が私のもやもやした胸のうちなど気づきもせず、ニコニコしながら聞いてくる。けれどそのまっすぐで嫌味のない感じは、無視できない

「山本真琴です……」

「真琴ね! よろしく。私のことは雫って呼んで。あ、隣の彼氏は?」

「あ、あの彼氏じゃなくて……」

「高木陸です」

 否定しようとする私の声に被せるように、陸がいつものペースでにっこりと微笑んで答えてしまった。肘でつつくけれど動じない。

「かわいいっていったら怒られちゃうかな。爽やかイケメンだね!」

「ありがとうございます。かわいいって結構言われてしまうから、気にしてませんよ」

 陸は昔とはまるで違い、知らない人である雫さんに物怖じすることなく、いつもの笑顔で答えている。

「お似合いカップルだねえ。陸もよろしくね」

「ちょ、ちょっと陸! あの、そうじゃなくて……」

 なんとか言い訳しようと口を開いたその時だった。

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