第70話

文字数 821文字

「敵情視察?」

「どうですかね」

 リクは動じる様子もなく、そう言って小さく笑った。

「受け答えがもう、お兄ちゃん通り越して大人になってるし。そりゃ俺も年取るわけだ。陸くんも、受験生だもんなあ。どこを志望してるの?」

 リクは一瞬間を置いたあと、静かに答えた。

「真琴と同じ医大です」

 それからまっすぐこちらを見たから、こいつが俺に言いたかったのはこれか、と苦笑が零れた。雫も、うわぁそうきたか、と小さく呟き、貴大さんもヒューと軽く口笛を吹いた。

「へえ、なるほどねえ。うん、頑張れよ」

「ありがとうございます。それじゃ僕、そろそろ塾に行きます。お邪魔しました」

 リクは貴大さんに軽く頭をさげたあと、俺には、すと鋭い視線を投げかけて、店からでていった。

「なーんか、言いたいこといって帰ったねえ。凄い対決を目の前で見ちゃったー」

 雫が興奮冷めやらぬ様子で、でかい声でそういうから、お前うるさい、とため息をつく。

「あれ、遊に対する宣戦布告だよな? 俺も最初から見たかったなあ。肝心なとこ、見逃した気がする」

 貴大さんまでワクワクした口調で雫と調子を合わせているからイヤになる。

「貴大さん、1番のハイライト見逃しましたよ! 遊がですねえ……」

「雫!」

 先程まで貴大さんには恥ずかしそうにしていたくせに、すっかり本調子を取り戻してニヤニヤしている雫を睨む。それを見て貴大さんまでゲラゲラ笑うから、眉をしかめると、笑いを納めて少し真面目な顔になった貴大さんが口を開いた。

「あの子、陸くんさ。昔は今よりずっとか弱くて、女の子みたいで。儚げな美少女って感じだったんだよな。いつも真琴の後ろに隠れていたんだけど、ある日、公園で真琴が年上の男の子と喧嘩をおっぱじめてさ。そしたら陸くん、吹っ飛ばされるのを覚悟で、ガムシャラに突っ込んでいくんだよ。それ見て、凄くびっくりしたのを思い出した。あの頃からずっと真琴のことが好きだったのかもしれないな……。ありゃ、手強いぞ遊」

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