第102話

文字数 865文字

 真琴の声は、微かに震えていた。

『あのね。……遊さんにとって、私って、なんだろうって考えてて』

 真琴はゆっくり話しだす。その口調は考えて考えて、やっと話しているひと特有の、決意みたいなものを感じさせた。

『一緒にいたら、楽しいって、思ってくれてるのかもしれないけど……でも私は……』

 そう言った後黙り込んでしまった。待っていてもそれ以上話さない。

「……真琴、教えて。いきなりどうしてそんなことを考えた? そこから説明してくれないとよくわからな……」

『いきなり、じゃないよ!』

 真琴が強い口ぶりで俺の言葉を遮った。

『とにかく……私も受験勉強に集中したいから……。だからもう、遊さんには会わないし、連絡もしないから。安心して、ね』

 勉強に集中したいのはわかるけど、俺が安心するってなんだ? 納得できるわけがない。しかもそんな謎を吹っかけたまま、電話を切ろうする気配がしたから、つい声を荒げてしまった。

「真琴! 切るな!」

 電話の向こうでした息を飲む気配に、慌ててごめん、とつぶやく。

「ちょっと待って。真琴の言ってることがわからない。どうして真琴が連絡しないことで俺が安心するって思う?」

 一瞬間があいたあと、小さなため息。

『……そんなの。遊さんが一番わかってるでしょ』

「いや、わからないから、聞いてる。ちゃんと言ってみて」

『……遊さんが気づかないなら、それでいいよ』

「よくないから!」

 語調がキツくなりそうなのを、なんとか抑える。真琴は数秒黙ったあと、小さな声で呟いた。

『だって。私と遊さん、別に付き合っているわけじゃない。遊さんの、自由だから』

「……俺の自由?」

 何かがすれ違っているのは、わかった。わかったけれど、具体的なことを聞かないと、ちゃんと答えられない。苛立ちが募る。俺と真琴をつなぐ糸はまだこうして、辛うじてつながっている。でもこのままだと容易く切れてしまいそうだから。なんとかしてそれを、手繰り寄せる。ひとつ、大きく吐息をついてから、口を開いた。

「……自由っていうなら。それなら俺も思ったこと、はっきり言っていいかな」

 
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